千葉県は今年からインターハイの出場枠が1つに減ったが、代表の座を手にしたのは市船橋でも流経大柏でもなく、33年ぶり2度目の県優勝を果たした日体大柏だった。平成の時代に幾度となくはね返された2強の壁を不屈の精神で打ち破った日体大柏が、令和初年度のインターハイに挑む。(文・小野哲史、写真・幡原裕治)

県決勝で、序盤の2点ビハインドという苦しい状況から2得点を奪い、チームを勢いづけたMF佐藤大斗

県予選は劇的逆転V

6月に千葉県総合スポーツセンター東総運動場で行われた県予選決勝は、まさに死闘だった。相手は昨年度の全国高校選手権準優勝の流経大柏。日体大柏は、2-3で迎えた後半アディショナルタイムにPKで同点に追い付くと、延長の終了間際に決勝ゴールを奪い、4-3で劇的勝利を収めた。

値千金の2得点を挙げたのは、けが明けで後半途中から送り込まれたFW長崎陸(3年)。「負けていたので絶対にゴールを決めるという強い気持ちで入った」と振り返り、「一番感謝したいのは応援団。試合に出られず悔しいはずなのに、1回戦からずっと応援してくれた」と、決勝ゴールの直後は、バックスタンドに陣取る部員に向かって一目散に走って行った。

敗色濃厚の後半終了間際に得たPKを冷静に決めたFW長崎陸。延長終了間際にも決勝点をたたき出した

前半12分までに2失点を喫し、序盤から流経大柏ペースで試合は進んだ。しかし、MF佐藤大斗(3年)がFW耕野祥護(3年)の鋭いカウンターにうまく合わせて1点を返し、後半17分にも右足で同点ゴールを突き刺した。「2点リードされても気持ちで引くことはなかった。苦しい展開だったけれど、自分たちは一致団結できていたので、やれる自信はありました」(佐藤)

「ギクシャク」経て一丸

主将のDF伊藤夕真(3年)は今年度のチームを「個性が強い選手が多く、まとめるのが大変」と笑う。

春先からのチームづくりは必ずしも順調ではなかった。4月の関東大会予選はまさかの初戦敗退。U18県リーグ1部でも今ひとつ調子が上がらず、酒井直樹監督は「チーム内がギクシャクしていた」と明かす。「インターハイ予選に向けて、どうやってチームをマネジメントしていくかが私の最大のテーマでした。ただ、いずれにしても勝たなければ次はありません。とにかく勝ちにこだわっていこう、常にチャレンジだと言い続け、自分たちが描くサッカーに集中していました」

後半30分過ぎに交代するまで、灼熱のピッチを駆け回ったMF佐藤大斗

指揮官の考えは徐々に選手に浸透し、それとともに「監督や(片野慶輝)総監督を全国大会に連れて行きたい」(伊藤)と、いう選手たちの思いもモチベーションを高めた。試合を重ねるごとにチームが一つにまとまっていった日体大柏は、準決勝でもう1校の優勝候補・市船橋を1-0で撃破。伊藤が「今大会に向けて、特に重点的に強化してきた」と語る守備面での粘り強さが光り、「十分に戦える」という確かな手応えを胸に決勝を迎えていた。

1点を追う終了間際に日体大柏がPKを獲得。重圧のかかる場面だったが、エースストライカーのFW長崎陸(右)に託された

「絶対優勝」全国で暴れる

インターハイで全国最多9回の優勝を誇る市船橋と、2008年以降の11大会で4度決勝に進み、うち2回優勝している流経大柏。千葉県はもちろん、全国的にも名門として知られる2強を下してつかんだインターハイへの切符だけに、優勝の瞬間、部員や保護者たちは歓喜を爆発させた。かつてJリーグの柏レイソルで活躍した酒井監督も興奮を隠せなかった。

「熱く、感情の起伏が多い高校サッカーですが、勝って涙できることはそう多くありません。最後まで諦めず、心の底から勝ちたいという気持ちを出して、私が想定していた以上の力を発揮してくれた選手に感謝です」

ひとしきり喜びを分かち合った後、選手たちは視線を早くも7月26日に開幕するインターハイ本番に向けていた。長崎は「個人としてはまだ満足していない。全国で暴れまくってきます」と語り、佐藤は「激戦区と言われる千葉県を制したので、自信を持ってインターハイに臨めます」と意気込んだ。伊藤は「市船橋と流経大柏に勝てたことは誇りです。でも、全国大会で負けたら意味がないので、インターハイでも絶対に優勝します」と、自らに言い聞かせるように固く誓った。

県内の2強を撃破し、33年ぶり2度目のインターハイ出場を決めた日体大柏

チームデータ

創部年不明。部員110人(3年生31人、2年生39人、1年生40人、マネジャー5人)。チームスローガンは「疾風迅雷」。2015年2月に柏レイソルと相互支援契約を結び、“レイソルアカデミー”の一つとして、関東プリンスリーグ再昇格と全国大会出場を目指して活動している。主な卒業生は中村航輔や手塚康平(ともに柏レイソル)ら。