県立浦和高校(埼玉)の落語研究部は1940年代から活動記録が残る歴史ある部活だ。部員は7人。学校付近の公民館や定食屋で、地域の人たちに向けて寄席を開くなど、校内外で 年6回公演を行う。(文・写真 中田宗孝)

落語研究部の3人

「マクドナルド」に爆笑

9月の文化祭で3人の「高校生落語家」が個人練習を重ねてきた落語を披露した。文化祭では化学講義室が寄席となる。赤い幕を敷いた教卓の上に座布団を置いて即席の高座が作られた。出囃子(でばやし)が鳴り、高座に上がった銀杏亭黒犬こと藤井悠介君(2年)による演目「目黒のさんま」が始まった。

さんまの味に心奪われた殿様のてん末を、抑揚のついた語り口で聞かせていく。おなかをすかせた殿様がお供に「マクドナルドはないか?」とたずねる、現代風のアレンジにどっと笑いが起こった。「本番はとても緊張して言葉が途絶えてしまう所がありました(苦笑)。でも、自分の語りで笑い声が響くと、気持ちいいですね」(藤井君)

現代風にアレンジした落語で笑いを誘った藤井君

機転利かせてピンチを笑いに

トリを務めたのは、銀杏亭輝玉こと五十幡大輝君(3年)。この日が高校最後の高座となる。気負いを感じさせない、軽妙なまくら(落語に入る前の導入話)で観客を温めていく。続けて、有名な和歌の意味を知ったかぶる和尚が、とんでもない歌の解釈を語りだす演目「千早振る」を披露した。

演目中、噺(はなし)を忘れてしまう一幕も。だが、取り出した扇子をパタパタさせながら「えー、暑いですね、皆さん。最後でございますから力が入っておりまして」と、あざやかにしのぎ、笑いに変えてみせた。「1年の時に取り組んだ演目に再挑戦したんです。当時よりもしっかり笑いを取れて感無量です」(五十幡君)

ピンチを笑いに変えた五十幡君

登下校中に演目を練習

公演直前の練習会以外は、ほぼ集まることなく、各部員の個人練習が主体。気に入った落語の演目や、好きな落語家の噺にそれぞれ取り組む。中曽根裕典君(3年)は「自転車での登下校中に演目を繰り返しつぶやきながら練習した」と言う。

高校入学前は「時々『笑点』を見る程度」だった中曽根君は、先輩部員に誘われて入部を決めた。だが、「笑いの中に、人情、ひねり、深みがある」と、落語の世界にすぐに魅了された。

中曽根君の名前を音読みにし、「笑点」と遊楽的な意味を組み合わせた高座での名前は「銀杏亭遊点」。高座名は、先輩部員たちが決めるのが伝統で、新入部員の人柄や趣味を聞き取りしながら命名する。亭号(苗字に当たる部分)は、校章に刻まれる同校シンボルの銀杏から「銀杏亭」と名乗るのもならわしだ。

中曽根君は「始めた当初は演目を覚えるので精いっぱい。今は、話すトーンや間を考えられるようになったし、お客さんの反応をうかがう余裕も生まれました」と、落語家としての成長を語った。

巧みな表現力で噺の世界に客をいざなう中曽根君