インターハイバスケットボール男子に出場する桐光学園(神奈川)は、留学生はおらず、県内出身者のみで構成する。堅い守備と相手を圧倒する素早い攻撃が強みのチームは、練習時からの映像分析にも乗り出し、レベルアップを図っている。全国の舞台では、留学生を擁する強豪との対戦もあるが、上位進出への自信は揺るがない。この夏、インターハイで「神奈川の雄」が旋風を巻き起こす。(文・写真 青木美帆)

主将の鈴木悠斗

長身選手も高い走力

高校バスケの強豪校には、全国から有望選手が集まる傾向が強い。しかし桐光学園は、神奈川県内の中学を卒業した部員のみがメンバーだ。当然、強豪校で大きな戦力となっているアフリカ系の長身留学生はいないが、留学生を擁するチーム相手に互角に戦う力は備えている。

桐光学園のモットーは「堅守速攻」。文字通り、堅い守備で相手のミスを誘い、素早い攻撃で得点を奪う戦い方だ。バスケットにおける速攻というと、できるだけ少ないパスで得点するプレーを思い浮かべるが、桐光学園のそれは異なる。

関根隆慈(3年)は「ガードポジションの選手が速いドリブルで目の前のディフェンスを抜き、攻撃人数がディフェンスより多い状態で得点することを意識しています」と説明する。

関根隆慈

長身選手たちの走力も例年に増して高い。主将の鈴木悠斗(3年)が「去年よりも走れる」と胸を張る通り、スピードが今年のチームの売りだ。

留学生への苦手意識消えた

ゴール下で2メートル級の留学生を相手にするのは鈴木響希、吉田敬陽(ともに3年)ら4人の長身選手。特に、スタメンを務める鈴木響と吉田は身長190センチの細身の体で、高さもパワーもある留学生に対抗しなければならない。

留学生をマークすることが多い鈴木響は「できるだけ腰を低く落として、ゴール付近から相手を押し出す」と対応策を話すが、「日本人選手と戦うときとは疲れ方が全然違う。10分間プレーしただけでも相当消耗します」と打ち明ける。吉田は自分のマークマンを相手にしながら鈴木響を助け、2人の下級生は疲労やファウルの数に応じて交代出場する。関東大会や練習試合で経験を積んだ現在、チームに留学生への苦手意識はほとんどないという。

インサイドの鈴木響希

映像分析で課題あぶり出す

今年の桐光学園は、コートを離れたところでもさまざまな工夫が光る。一つが映像分析だ。

一昨年、1人の部員が自発的に始めた取り組みがきっかけとなり、翌年以降も有志が受け継いでいる。今年はメンバー外の選手や下級生が、自チームや相手チームの試合だけでなく、自チームの練習の様子もビデオに収め、相手と自分たち双方の特徴や課題をあぶり出している。

分析の中心となった高橋遼平(3年)は「プレー以外でチームに貢献したい」と志願した。個人練習の時間が終わると体育館横の倉庫に入り、黙々と映像をチェック。移動や帰宅後の時間も使って相手チームの攻撃フォーメーション、ディフェンスの癖などをまとめ、LINEで部員たちに共有し、高橋正幸監督にも提言した。裏方としてチームを支えた高橋は受験のため、6月の県総体終了後にチームを離れたが、集めたデータやノウハウは下級生たちに引き継がれている。

高橋監督の「世界で一番自分たちのことをわかりなさい」という考え方を受け、メンバーは対策よりも反省材料として映像を使っている。6時間目が空き時間となる3年生は、ほぼ毎日みんなで試合映像を確認。ミスの検証では言い合いになることもあるが、「言われていることは間違っていないので、イラっとしながらも納得するようにしている」と鈴木響は苦笑い。カッとなると言葉足らずになりがちだった鈴木悠も映像で己の姿を反省し、県総体ではキャプテンらしく最後まで仲間に声をかけ続けた。

左から千葉一輝、小柳龍也、高橋遼平(いずれも3年生)

もう1つが体づくり。今年2月より新たにトレーナーを招き、週に3回、30~40分程度のトレーニング時間をもうけるようになった。

保護者を含めた栄養講習も行い、練習後には疲労回復効果のあるオレンジジュースといわゆる「サラダチキン」をとってから帰宅するように。体重と体脂肪を週に1度計測し、太り気味だった鈴木雄馬(3年)は6キロの減量、痩せていた鈴木響は5キロの増量に成功した。鈴木響は「フィジカルが強くなった」とその効果を実感している。

ベスト8以上を目指す

新チームの始動時から、桐光学園は県で頭一つ抜けた実力があると目されていた。しかし、初陣となった1月の新人大会で準優勝に甘んじ、直後の市内大会でも敗北。関根は「自信がなくなった」、鈴木悠は「自分が一番落ち込んで、主将なのに何も声を掛けられなかった」と振り返るが、この2つの敗戦があったからこそ「神奈川ではもう負けたくない」(鈴木響)とチームが結束した。

6月の関東大会では正ガードの鈴木雄をけがで欠きながら決勝に進出し、インターハイの優勝候補の一角である八王子(東京)を相手に互角の試合を繰り広げた。その後の県総体も危なげない展開で決勝リーグ全勝を飾り、インターハイ出場を決めた。

最終戦はミスが多く、鈴木悠は「課題としていた自分たちのペースでゲームを作ることがうまくいかなかった」と悔やんだが、県内では大きなアドバンテージとなる鈴木響、吉田らの高さを生かした攻めを冷静に選択し、流れの悪い場面ではお互いの気持ちを統一するなど、手ごたえも感じる大会となった。

インターハイでは、川戸渚(3年)ら控えメンバーの戦力が増した上で、鈴木雄が完全復帰する。今年の男子は国際大会と日程が重複し、有力校の主力はこぞって不在。例年以上の大混戦が予想される中、桐光学園はまずは2016年に記録した最高成績のベスト8以上を目指す。高橋監督が「上位に進める力は間違いなくある」と評価する「神奈川の雄」は、全国の強豪と肩を並べ、大会の主役に躍り出るつもりだ。

【チームデータ】
 1978年創部。部員32人(3年生11人、2年生10人、1年生11人)。卒業生に喜多川修平(栃木ブレックス)、斎藤拓実(アルバルク東京)ら。部訓は「Challenger」。
神奈川県内の中学出身者のみで構成する桐光学園