外国人と関わる場面が増える中、国籍や文化の異なる人々と分かり合うには、どのようなコミュニケーションをとればよいのだろうか。国際協力機構(JICA)国際協力専門員の石川幸子さんは、30年以上にわたって難民支援や開発援助の現場で働き、100カ国以上の人と接してきた。「日本人が世界で活躍するには『空気を読む力』が強みになる」と言う、その訳を聞いた。 (安永美穂)

 
石川幸子さん
いしかわ・さちこ 独立行政法人国際協力機構(JICA)国際協力専門員。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)で難民支援に従事した後、笹川平和財団勤務を経て、JICAで東南アジア諸国連合(ASEAN)地域の紛争解決や地域協力に取り組む。
 
 

気持ち察する力が生きる

――コミュニケーションには、国によってどんな違いがある?

言葉にしなくても気持ちが伝わりやすいかどうかは、それぞれの国の「コンテキスト度」により異なります。コンテキストとは、「文脈」や「前後関係」といった意味です。日本は個人よりも集団に重きを置く集団主義の国で、相手の気持ちを「察する」文化がありますから、コンテキスト度は世界で最も高いといわれています。

一方、欧米をはじめとする個人主義の国々では「自分の意思は言葉で説明しなければ相手に伝わらない」という考え方が一般的です。これらの国々はコンテキスト度が低いため、言葉による明確なコミュニケーションが求められます。

――日本人のコミュニケーションの強みは?

言葉は勉強すれば話せるようになりますが、コンテキスト度の低い国の人が相手の気持ちを察する力を身に付けるのは難しいものです。その点、日本人は世界でトップの「空気を読む力」を持っているわけですから、外国の人と接するときはコンテキスト度を調整して対応すればよいだけのこと。頭のスイッチを切り替え、相手に応じて言葉でのコミュニケーションの比重を増やせば世界のどこでも誰とでもうまくやっていけます。

 

共感力を育てよう

――国際的なコミュニケーションで大切なことは?

相手の立場に立って物事を感じる「共感力」だと思います。これは、ガラス越しの感覚で「かわいそう」などと言うだけの「同情」とは違います。

共感力を身に付けるには、多様な文化を持つ人々と交流する「るつぼ体験」を通じて、相手の悲しみや喜びを分かち合う経験が欠かせません。重要なのは、相手の国籍にとらわれず、一人の「人」対「人」として接すること。海外では「他人と違うのは良いことだ」という考え方が主流です。「違って当たり前」と考えていれば、自分と異なる文化や意見を持つ人のことも受け入れられます。

相手の価値観を受け入れて

――相手との違いに戸惑った経験は?

大学時代に、日本と東南アジア諸国の若者が船で生活を共にしながら交流する「東南アジア青年の船」に参加した時のことです。寄港先で中華系のホストファミリーと食事に行くと、全員分のスープが1つの大きなボウルで出され、各自がボウルに直接れんげを入れて飲み始めました。私は「スープ皿に取り分けてほしい」と言おうか迷ったのですが、結局、彼らと同じ中国式の方法で頂くことに。それからは会話が弾み、楽しい食事になりました。

ささいな出来事かもしれませんが、私はこの時、相手の価値観を受け入れる選択をしたわけです。もちろん、場面によっては相手のやり方を受け入れられない場合もありますが、そんなときもただ拒否するのではなく、お互いが歩み寄れる折衷案を考えることが大切です。

――高校生へのメッセージを。

私自身、「東南アジア青年の船」で出会った友人とは、36年が経った今でも交流が続いています。国を越えて思いを分かち合える人々とのつながりは宝です。外国の人の手助けをするボランティア活動に参加するなど、日本にいてもできることはたくさんあるので、さまざまな国の人とのコミュニケーションを楽しめる人になってくださいね。

【石川さんの本をチェック】 
 
世界のどこでも、誰とでもうまくいく!
「共感」コミュニケーション
 同文舘出版、税抜き1500円
国籍や文化、立場が違う相手と気持ちのいい場をつくり、信頼関
係を築くにはどうすればよいかが分かる一冊。