赤尾さん(前列左から2人目)とメンバーたち

部員たった1人で、仲間を募り、全国公演の切符をつかみ取った演劇部員がいる。成田国際高校(千葉)演劇部の部長、赤尾千夏さん(2年)だ。仲間7人と共に高校演劇の全国大会「第12回春季全国高校演劇研究大会(通称春フェス)」(3月、神奈川県)の舞台に立った。「一人だと感じたことはない」という赤尾さんのこれまでの歩みを聞いた。(文・写真 中田宗孝)=学年は開催時

剣道部の日常演じる

先輩が卒業し、昨年4月、演劇部は赤尾さん一人になった。公演に向けて校内で協力を呼び掛けたところ、赤尾さんの熱意に心を動かされた、5人の生徒がサポートしてくれることになった。

今回の演目は、3人の女子剣道部員による「ゆるい日常」を描く「#ミサイルが日本列島を飛び越えていった日 やっぱりあたしたちは部室にいた」。物語が進むにつれ、3人の人間関係や、彼女たちの繊細な内面が垣間見える、笑いと切なさが交錯する人間ドラマだ。

練習は、7月から始まった。サポートメンバーは、ほぼ演劇未経験だった。「メンバー同士ぎこちなく、不安いっぱいのスタートでした」(赤尾さん)。練習は週5日。大会直前は毎日稽古に励んだ。途中で2人加わり、8人になった。当初、活動は9月の地区大会までの予定だったが、好結果を残したため継続。県、関東大会を勝ち進み、全国公演の切符を手にした。

「私は一人じゃない」

だが稽古中、赤尾さんの演技は「ちぐはぐ過ぎる」と、顧問の伊三野友章先生から指摘されてしまう。脚本は、役を演じる生徒の普段のキャラクターそのままの「当て書き」と呼ばれる手法で書かれたもの。空気の読めない性格の役を演じていた赤尾さんは、サポートメンバーをまとめる日々を過ごすうちにリーダーシップが芽生えていたため、役の性格とズレが生まれていたのだ。「自分そのものを演じていたのに……」。悩んだ赤尾さんは、この演目を始めたころの演技を思い返し、本番では自分の役を取り戻した。

本番を終えた赤尾さんは「自分が一人部員だと感じたことは一度もない」と、たった1人で始まった活動を振り返った。「問題が起きてもメンバー全員で話し合いを重ねて劇を作ってきた。私は一人じゃないんです」。4月からは新入部員の勧誘に励むという。

劇中の様子。他人の視線が恐くて顔を隠すためマスクを着けるキャラが語る(全国高校演劇協議会提供)