ソマリアギャングと仲を深める永井さん(右奥から2人目。8月撮影、永井さん提供)

東アフリカに位置し、部族間紛争や武力勢力の台頭などで「世界最悪の紛争地」ともいわれるソマリア。多くの難民が他国に流出し、犯罪組織や武装集団などに関わることも少なくない。大学時代に学生NGOを立ち上げ、ケニアでソマリアギャング更生プログラムを行ってきたNPO法人アクセプト・インターナショナルの代表理事・永井陽右さんに話を聞いた。(山口佳子)

 
【NPO法人アクセプト・インターナショナル 代表理事永井陽右さん】
ながい・ようすけ 1991年神奈川県生まれ。藤嶺学園藤沢高校卒。早稲田大学卒業後、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの紛争研究修士課程修了。2017年3月、NPO法人アクセプト・インターナショナルを設立し、政府や国連などとともにテロと紛争の解決に尽力。2作目の著書「ぼくは13歳、任務は自爆テロ。: テロと戦争をなくすために必要なこと」(合同出版)を8月31日に出版。

困っている国助けたい

──もともと国際協力に興味があったのですか?

高校2年のころ、温暖化が原因でツバルという島国が海に沈む危機にあると知り、衝撃を受けました。「自分以外の存在」を意識し、他者にも普通の生活やいろいろな感情があるという「当たり前のこと」に気付いたんです。実は小・中学校時代の僕はいじめる側にいて……。ツバルを知り、いじめを受ける側の気持ちが分かり始めました。罪悪感もあり、「これからは困っている人の味方になりたい」と考えるようになりました。

──なぜソマリアに?

歴史資料集で虐殺があったと知り、ルワンダへ大学1年の時に行きましたが、現状は平和を取り戻していました。帰国途中に立ち寄ったケニアで、ソマリアからの難民が多く住む「イスリー地区」を知りました。調べると紛争や飢餓に苦しむソマリアを国連は「比類なき人類の悲劇」と表しており、「世界で一番困っている国だから助けたい」と思いました。

行動に移すため、当初はソマリアを支援している団体を探したのですが、見つかりませんでした。支援を必要とする人たちがいるのに「危険だから」との理由で手を差し伸べる大人がいないことが、大学生の僕には疑問でした。

──どのようにソマリアにアプローチしたのですか?

情報収集を続け、通っている早稲田大学にソマリアの遺児2人が入学したと知り、「ソマリアを救いたい」と思いを伝えました。彼らはケニアのソマリア人コミュニティーを良くする活動をしていたNGOのメンバーだったので、仲間を紹介してもらい、日本人大学生のメンバーも加え、「日本ソマリア青年機構」を設立しました。

ギャングとつながりをつくる

──そうして「イスリー地区」の支援に乗り出したのですね。

当初は、スポーツ用品を届けたり、日本への留学を橋渡ししたりする活動にとどまっていました。でも、現地の人たちに期待することを尋ねると、常に「治安改善」でした。ニーズに応えられていないもどかしさや恥ずかしさが拭えませんでした。

──でも、「治安改善」は大学生が取り組むには難しい課題です。

最初は無理だと思い込んでいたんです。でも、治安悪化の要因はドラッグの密売や殺人などを行う若い世代の犯罪集団であるギャングの存在が大きかった。そしてソマリアの武装勢力は彼らとつながっていた。誰もがギャングにアクセスできない中で、同年代の僕たちだからこそ、つながりをつくれるのではないかと考え始めました。

同じ若者だと受け入れる

──ギャング更生プログラムとは、どのような活動ですか?

ソマリア人というだけで差別や暴力を受け、ケニア社会に受け入れられず、帰属意識が持てないためギャングにならざるを得なかった若者が多い。そこで、レッテルを貼らずに彼らを受け入れ、自分自身を振り返ってもらい、イスリー地区の治安が悪いのは自分たちが原因だと気付いてもらいます。そして「僕らと同じ若い世代として、これからの世界を変える仲間になろう」と働き掛けます。

始めたばかりの時、僕につかみかかってきたギャングがいました。彼は、今では小学生に向け「ギャングにはなるな」と講演活動をしています。

プログラムを修了したギャングは今年9月で約90人となり、イスリー地区にあるギャング組織のうちの1つが解体されます。彼らは新たにサッカーチームを作り、若い世代のリーダーとして活動しようとしています。

──プログラム修了後も、つながりを大切にしていますね。

今もスタッフが手分けして一人一人に定期的に電話をかけます。なかなか電話に出てくれないし、すぐに切られることもあるけれど、僕らがずっと気にしているよというメッセージが、彼らの力になると信じています。

議論するギャングたち(永井さん提供)

 

世界のニーズを知ろう

──これからの目標は?

ギャング更生は現役大学生たちに任せ、武装勢力からの投降兵を支援する活動を始めました。より危険な紛争地域に行くことが増え、死の恐怖もありますが、今の僕にしかできない支援をやるしかない。ソマリア人の仲間のためにも、人間としてやるべきことを続けます。危険を回避する方法を学ぶなど、準備には十分時間をかけているので、現地に赴くときは「人事を尽くして天命を待つ」心境です。

──国際協力に関心のある高校生にメッセージを。

教育や難民支援は取り組む人が多い一方、「危険」「共感しにくい」などの理由からテロ・紛争解決を行う人は極めて少ないです。どうか、「自分がやりたいこと」だけではなく、「どんなことが求められているか」という視点を忘れないでほしい。その中から「今の自分にしかできないこと」を探してほしいですね。

 

ソマリアってどんな国?

氏族間対立から以前は無政府状態

 1980年代に起きた氏族同士の争いが内戦に発展。91年に政府が倒れ、無政府状態が続き、群雄割拠の戦国時代が続いた。2012年には政府が樹立されたが、武装勢力アル・シャバーブによるテロ行為が繰り返され不安定な治安状態が続いている。

度重なる深刻な干ばつ

 降雨量不足などから大規模な干ばつが発生しやすい。10~12年の飢饉では約26万人の死者が出て、その半数を5歳未満の子どもが占めたといわれる。今年3月には、ソマリアの人口の約半分に当たる620万人が深刻な食糧不足になる可能性があると国連が警告した。
 劣悪な治安状況や慢性的な飢餓の影響で、隣国のケニアやエチオピアなどへ大量の難民が流出している。