1 月の全日本高校選手権(春高バレー)で優勝を飾った大村工業。長崎県の小さな市の県立高校が、県外の選手に頼ることなく、地元の中学生を育て「全国」の舞台で勝ち続けている。練習の現場を訪ねると、「部員自ら考え行動する部活」を目指す取り組みがあった。 ( 文・写真 南隆洋)

「春高」決勝後のインタビュー。伊藤孝浩監督(45)の言葉は周囲を驚かせた。

「私は何も言っていません。選手が(サーブの狙いを)決めたみたいです」

練習メニュー、エントリーメンバー、対戦チーム分析と作戦、時間調整などすべて部員が話し合いながら決めてきたという。

「指示を待たず、自ら考え、行動する人」―― 練習場の体育館に掲げられた「大村工高バレーボール部が望む選手」10カ条のトップに記された言葉だ。

「ピーッ」。生徒の吹く笛の音とともに、練習は分刻みで展開していく。選手の動きは常時ビデオ撮影され、7秒遅れで、すぐそばにある大画面に映し出される。体が動きを覚えているうちに、フォームや連携をその場で自己チェックできるシステムだ。

舞台の上から見守る監督が、突然大声を上げた。

「何のためのレシーブか、カットか。何を考えていた? 説明してみろ!」

問題を指摘し、考えさせる。「どんな良いメニューをつくっても、本質を理解していなければ意味がない」

そう話す監督の背後には、「頭を使え、正しい努力をせよ」「できるか、できないかではない。やろうとしたかだ。それがお前の限界か」などと記されたパネルの列。「自然に選手の目に入るようにしている」という〝舞台装置〟だ。

新チームは「春高」決勝の翌日にスタートした。1月の長崎県新人戦、2月の全九州選抜ではともに決勝戦に勝ち進むことはできなかった。

「強くなるために、弱い時があってもいい。失敗してもいい。悔しさ、情けなさ。なぜ負けたのかを自分たちで真剣に考え挑戦していくことで、全国で勝てる力が培われる」と、生徒を信じ成長を待つ。昨年の高校総体2回戦敗退を、国体準優勝、春高優勝につなげた。

「チームで勝つための基礎は人間関係づくり」「個人の人間力、コミュニケーション能力で結果が左右される」という監督。

すべての公式戦の翌日に、部員全員が「反省文」を監督に提出する。相手と自己を分析し、原因と対策がノート1ページにぎっしりと記されている。

合宿や遠征地では、朝の散歩の時に全員でゴミを拾い歩くのも伝統となっている。「春高」決勝の朝、新宿・歌舞伎町をきれいにした。

「気づく力、犠牲心、奉仕、思いやり、面倒くさがらずに自然に体を動かせる姿勢がプレーにつながる。明るく元気に一生懸命プレーして、スタンドも味方にするチームに」と監督。

主将の竹下俊輝(3年)=長崎・南串中出身=は「責任を与えられ人間的に成長してきた。みんなで自立した大人のバレーを目指したい」と、リベンジを誓った。

【TEAM DATA】
●創部/ 1962 年●部員/ 35人(3 年20人、2 年15人)●練習時間/毎日3時間 (月曜休養、土日は試合などで終日も)●指導者/伊藤孝浩監督(45) 西田利興部長(43)●主な実績/ 2003 年度高校総体優勝、 2011 年度国体準優勝( 長崎選抜)、 2011 年年度「春高バレー」優勝。●モットー/自ら考え行動 明るく 一生懸命 勝つバレー 明るく正しく厳しく努力