優秀賞
誰もが夢を描ける世界へ

開智高等学校 1年 小宮 雪鹿

「成長していく過程で、なりたいものになれない現実を知りました。」孤児院の職員さんはそう教えてくれた。

中学二年生の夏、カンボジアの孤児院への奉仕活動に参加した。『小さい子ども達と関わりながら世界中の人をハッピーにしたい!』という夢があったからだ。しかし、そこには『私のように夢を追うこと』を諦めなければならない子ども達が多くいる現実があった。職員さんは自身を 「医者になりたかったが、成長していく過程でなりたいものになれない現実、学校に通えなかった自分には医者になるための土台がないことを知った。」と話してくれた。この言葉に私は衝撃を受けた。

私にとっての『夢』とは、努力と才能で叶うものであった。しかし、世界には夢に挑戦できる環境、自由に選ぶ選択肢すら無い子ども達がいた。以来私は、性別や生まれた場所に関わらず『どんな人も自由に夢を描くことができ、その夢を環境によって諦めることのない世界』を作りたい という思いを抱くようになり、現在の私の夢となっている。私はこの夢に向かって、自分にできることを常に考え続け、活動に繋げている。

まずは『本当の現実を知る』ことから始めた。『知る』が『考える』に繋がり、『行動』に繋がると考えたからだ。コロナの影響で活動が制限された今でもできる活動をと、各地から集めた古着や靴を仕分けしてカンボジア等に送るボランティアへ参加した。学校では三人の友人とSDGsに関する活動を行う団体を発足させ、現在は五十人ほどのメンバーで様々な活動を続けている。まだコロナ禍ではあるが、今年七月には、タンザニアの学校週間の教育奉仕活動に参加した。二度の現地途上国での活動経験から、実際に行くことで分かることがあることを学んだ。

出会う前は孤児院の子供達は両親と別れていて『可哀想だ、私が元気にしてあげなければならない』と思っていた。しかし実際は皆家族みたいに仲良しで笑顔でスポーツが上手で英語が得意な子もいて、私の方がたくさんの元気をもらった。出会う前から可哀想だと決めつけていた自分を恥ずかしく思った。厳しい現実もあった。カンボジアでは、多くの裸足の子ども達を、小さい子が早朝から観光客に物を売り歩く姿を、暑い日に路上で売るための絵を描き続ける男の子を、見た。タンザニアの三~六歳の子達は毎日片道二時間以上かけて登下校していた。子供達は皆髪の毛を短く剃っていた。お風呂に入れないからだそうだ。服も、多くの子が私が帰るまでの三週間ずっと同じものだった。明らかに小さい靴を履いていて、「先生、痛いよ!」と訴える男の子がいた。週に一回出るお昼ご飯は、毎回取り合いが始まる。私の水筒の水を巡って殴り合う姿も見た。これが私の出会った現実である。果たしてこの文章を読んでいる人の中に、水を巡って本気で殴り合ったことがある人はどれだけいるだろう。蛇口を捻れば飲める水が出てくるこの日本で。

私が作りたい『どんな人も自由に夢を描くことができ、その夢を環境によって諦めることのない世界』を実現するには、まず私自身が『誰かの環境を支える人』になる必要があると考える。私の留学は奨学金に支えられており、私自身決して裕福な環境にいるわけではない。しかし、私の頑張りたいことに協力して応援してくれる友達や先生そして家族がいる。国際問題に興味を持ち、行動を起こすことができているのも、周りの環境があったからである。現地では、自分がどれだけ恵まれた環境にいるのかということを何度も実感した。環境は人から人へと繋いでいくものだ。将来は現地に足を運んで、現地の人達と話して直接的な開発援助に関わり、未来に大きな可能性を秘めている子ども達の環境を支える人になりたい。私は私の夢に向かってこれからも活動を続けていく。誰もが自由に夢を描ける世界にするために。