全日本吹奏楽コンクールで最多24度金賞の淀川工科高校吹奏楽部は、部員200人を超える大所帯だ。部のキーワードは「自分の中に『機関車』を持て!」。長年顧問を務める名誉教諭の丸谷明夫先生(66)から「燃料」を注入され、前へ進む。(文・写真 宇佐美英治)

丸谷先生は淀工以外の舞台でも指揮をする。5月下旬、ある演奏会へ向けた、混成で大人数の合同練習でも「無理に指揮者に合わせなくていいです」と告げ、演奏での注意点を「(自分)勝手に行くのはいかんけど、(指揮者や周りに)ついていくのは、もひとつ、いかん」と表現した。人に引っ張られずに、おのおのが動く。しかも、一緒になって動く。個人の中に機関車を持つことが大事だという。

「みんなが機関車を」の考えは、丸谷先生の恩師で関西吹奏楽連盟理事長を務めた松平正守氏(故人)の著書『こどもに音楽の機関車を』からきている。丸谷先生の指導で、淀工吹奏楽部の部員一人一人が、この機関車を持つことを意識している。気持ちが調和して「淀工の音」になる。

部員は216人(男子139人、女子77人)。吹奏楽未経験で入部した生徒も、演奏に限らずマネジメントなどを経験して淀工独特の深みを出し始める。

今年度は川口桂樹君(3年、オーボエ)と大野裕太郎君(同、パーカッション)の2人部長。山田むつみさん(同、フルート)が総務だ。スケジュールの細かい調整など、山ほどある仕事を、自分で考えて素早く対応することが求められる。

川口君は「先輩たちを見ていて、てきぱきした動きが勉強になりました。今度は自分がそう見られるようにならなくては」と、気を引き締める。「演奏会などでメンバーに入れない部員の気持ちを思うことも大事です」と大野君は言う。山田さんは「人への気遣い、配慮がもっとできるようにしていきたい」と自分を高めようとしている。

すでに自分の中に機関車を持っていて、整備も順調のようだ。淀工が長年蓄えた、部としての力量は引き継がれている。丸谷先生は「自分たちで考えなさい、ということです。その方が生徒も面白いでしょう」と言う。毎年構成が変わる部員たちが、考え抜いて底力をつけていくのが、うれしそうだった。