携帯電話を使っている最中に、突然通信が途切れたことはありませんか? その後、場所を移動するとまたつながったりして、ちょっと戸惑ってしまいますよね。そこで、携帯電話のような「移動通信」を、よりスムーズに効率よく行うための研究に取り組んでいる、千葉工業大学工学部情報通信システム工学科の中林寛暁(ひろあき)准教授にお話を伺いました。

電波の伝わり方をモデル化

中林寛暁准教授

携帯電話の通信は、鉄塔などの上に設置された基地局とスマートフォンなどの携帯端末が、音声やデータを載せた電波をやりとりすることで実現している。固定電話とは違い端末を持っている人が移動するため、通信路が状況に応じて刻々と変化する。中林先生は、こうした変化に応じて適切な移動通信が行えるよう、電波の伝わり方や強さを推定するための「電波伝搬モデル」を作っている。

「電波は目に見えませんが、非常に複雑な伝わり方をするんです。基地局と端末の間に障害物がなければ直進しますが、高い建物があると反射したり、上から回り込んだりして届くし、屋内と屋外でも伝わり方は違います。また、基地局から遠くなるほど電波は弱くなる。このように個々の環境によって変化する電波の状態を、数式や図で簡潔に表したものが伝搬モデルです」

携帯電話の通信サービスエリアには複数の基地局が配置されている。それぞれ担当エリアが分かれているが、もしもエリア間に隙間があると、その場所では通信ができない。逆にエリアが重なると、端末がどちらの基地局とやりとりすればよいかわからず、通信が切れてしまう。現状では基地局を配置してから実際に電波が届く範囲を測定し、不具合があれば別の場所に移すといった補正が行われており、コストと労力の両面で効率が悪い。しかし、正確な伝搬モデルがあれば、それに基づいてはじめから基地局を最適な場所に配置できるのだ。

伝搬モデルは多くの研究者によっていくつも作られてきたが、いずれも精度は今ひとつだそうだ。そこで中林先生は人工知能や機械学習を活用し、多様なモデルを効率よく融合。その結果、より精度の高いモデルを作ることができたという。

 
 

「車車間通信」で高度な自動運転を

2020 年からは、高速・大容量通信が可能な次世代移動通信システム「5G」のサービスが始まり、人とモノ、モノとモノなどの間で多様な通信が行われるようになるといわれている。車と車が通信する「車車間通信」もその一つで、中林先生も高度な自動運転の実現に向けて研究を進めている。

現段階の自動運転車では、障害物を検知するセンサーとしてレーダーなどが使われているが、レーダーは対象物に電波を当てて判断するため、対象物が見えない場所にあると状況を検知しにくい。しかし、車同士が通信し自車の位置や速度などを瞬時に送受信できれば、見通しの悪い場所でも状況がわかり衝突を回避できる。

電波の使われ方が予想以上に多様化し、研究のゴールが見えないと中林先生は笑う。「でも、それはこの分野がそれだけ多くの可能性を秘めているということ。今後も先端技術を駆使し、正確な伝搬モデルをより速く構築していきたいですね」

【取材を終えて】 志村 明果さん(東京都立国立高等学校2 年)

 
 今まで何気なく使っていたスマホなどのネットワークが、実はさまざまなことが考慮されていることを知って驚きました。今、大きな改革期にあるということを知ったので、情報ネットワークのニュースに注目していきたいと思いました。

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