教育学部は、基本的に学校教員の育成を目的とした教員養成課程で、卒業と同時に、教員免許が取得できます。教員になるためには具体的にどのようなことを学ぶのか、教育学を学ぶことでどのようなことが身につくのかを、東京学芸大学副学長の佐々木幸寿教授に聞いた。(安永美穂)

子が自発的に学ぶ教育を

――教育学はどんな学問ですか?

教育学は、科学的な知見に基づいて、「どうすれば個々の能力や良さを引き出しながら人を育てることができるか」についての理解を深め、それを教育現場での実践に生かすことを目的とする学問です。最大の特色は、理論を学ぶだけではなく、実践が重視されていること。教育実践では、従来は、どのように知識や技能を身につけさせるのかに関心が寄せられていました。しかし、最近は、子どもたち自身が自発的、主体的に学ぶように、「施す側ではなく受ける側が主役になる」教育のあり方についての実践研究が盛んになっています。

 

人間性を深められる

――教育学部で学ぶと、どんなことが身につきますか?

教員養成課程のある学部では、幼・小・中・高や特別支援学校の教員免許を取得できるだけでなく、人の内面理解に基づいて自分の関わり方を考える「人づくり」の全般を学ぶことができます。もし教員にならなかった場合でも、職場・家庭・地域などで豊かな人間関係を築き、人との関わりを通じて自分の人間性を深める上で役立つといえるでしょう。

また、中学・高校のみならず小学校の教員養成課程でも、国語・数学などの自分が専攻したい教科を深く学べるカリキュラムが組まれている大学もあり、好きな分野の研究を深めることも可能です。

人間関係の構築を学ぶ

――教育学部で学ぶことのやりがいや魅力を教えてください。

人を育てたり、人間関係を築いたりする上で大切なことを広く学べるのは教育学部ならではの魅力だと思います。

例えば、「頼んでおいた掃除をやってくれた?」「うん、やったよ」というのは、日常生活の中で普通によく見られる会話です。ですが、この会話をここで終わりにせず、「やったよ」と言われた後に、「きれいにしてくれて気持ちがいいよ」といった評価の一言を添えると、相手は努力が報われたと感じ、「次も頑張ろう」という意欲がわきやすくなります。

こうしたコミュニケーションは、学校現場で多くの教員が実践しているものですが、会社の上司と部下、部活の先輩と後輩、家庭での親と子など、さまざまな人間関係にも応用できるものです。単なるテクニックではなく、相手の気持ちに配慮してどう働きかけるかという視点そのものを学べるという点で、教育学を学ぶことは人間関係を学ぶことにもつながるといえます。

佐々木幸寿教授(東京学芸大学副学長)
ささき・こうじゅ

 

水沢高校(岩手)卒業。東北大学経済学部卒業。東北大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。専攻は学校法学、教育行政学。岩手県内の公立高校で地歴・公民を教え、野球部の監督を務めた経験を持つ。