トルコのシリア北部侵攻、サウジアラビアの石油施設攻撃、イランの石油タンカー襲撃と、中東情勢が急速に悪化している。背景には場当たり的とも言えるトランプ米政権の中東外交がある。混乱に乗じて壊滅した過激派組織「イスラム国」(IS)の残存勢力が息を吹き返す懸念も指摘される。

米軍が突然撤収

米政府は10月、シリア北部に駐留していた米軍部隊を突然撤収させた。米軍撤収はIS掃討作戦で長く米軍と協力してきた少数民族クルド人勢力にとっては〝寝耳に水〟、一方でクルド人勢力を敵視してきたトルコのエルドアン大統領にとっては〝千載一遇〟の好機だった。トルコ軍はシリアに越境し地上作戦を展開しクルド人を攻撃。エルドアン氏は「テロリスト109人を殺害した」と主張、多くの避難民が発生する人道危機に発展している。

 

米国不信が広がる

トランプ氏は米軍撤収の理由として「クルド人勢力は米国を助けていない」としている。だがクルド人は対IS掃討作戦で1万人以上を犠牲にしたとされ、「米国を信頼した代償が裏切りか」と猛反発、ロシアが支援し米国と対立するシリアのアサド政権との連携に踏み切った。米国不信は中東全域に広がり、反対にロシアがこの地域での存在感を強めている。

トランプ外交に懸念

トランプ氏は来年の大統領選に向け海外駐留米軍の撤収を進めることを公約。選挙集会などで「終わりなき戦争から手を引くべきだ」と訴えるが、米国の国家安全保障への影響も懸念され、国内からも撤収再考を求める圧力が強まっている。