間近に迫った地学の大会で発表をするポスターを準備する。指をさしているのは、新種の可能性が高い貝

 吉村太郎君(神奈川・慶應義塾高校2年)は、貝の研究に打ち込んでいる。小学生のころから貝を集め始め、中学2年時に見つけた貝化石は新種である可能性が高まっている。自力で専門家とやり取りしたり、高校生ながら学会に参加したり……。研究には困難も多いが、正式な新種認定に向けて奮闘中だ。
(文・馬島利花、写真・幡原裕治)

小学生時代から貝集め

吉村君が貝化石に興味を持ったのは、多くの貝が海に漂着する福井県で過ごした小学生時代。趣味で貝類の標本作りを始めた。中学1年時に参加した理科のコンクールには、505種の貝類標本を出品し2等を受賞した。

 標本を作るには、集めた貝を1つずつブラシで磨き、汚れを落とし乾燥させる。神経を使う作業が多いが、最も大変なのは、種名を特定することだ。まずは図鑑を使って調べるが、全てが載っているわけではない。図鑑に限界を感じた吉村君は「自分で分からないことは、専門家に聞いてみる」ことにした。

自力で協力者増やす

専門書の著者や、後書きの謝辞に記載された関係者名を見て、専門家を探す。分からない貝の写真に手紙を添えて郵送。この方法で、種名の特定を進め、協力してくれる専門家も増えた。

 新種と見られる貝化石は中学2年時に富山県の地層で見つけた。磨いているうちに「これは新種なのでは」と思い、専門家に相談したが、最初はデータが少なく、否定されることもあった。

 それでも、吉村君は諦めなかった。北海道などで生息するエゾキンチャクガイに近い種と見ているが、「比較するサンプルが少ない」と指摘されれば、すぐさま北海道庁に連絡を取り、漁協から貝102個を取り寄せた。

吉村君が見つけた新種の可能性が高い貝(左)。エゾキンチャクガイ(右)に近い種と見られるが、ヒダの段差の大きさに違いがあるのが特徴だ

言葉の壁も越える

新種と証明するためなら、言葉の壁も越えてみせる。ロシア語の文献を読むために、大学のロシア語の教授から協力も得た。翻訳に必要な専門的な知識は吉村君がカバーし、文献を翻訳した。

 こうして説明材料を集め、発表するうちに、「新種である可能性が高い」という専門家の意見も増えてきた。今年1月に日本古生物学会で発表すると、多くの専門家から新種であることへの賛同を得て、新種認定に向けてまた一歩、前進した。

 研究をそばで見守る同校地学科の杵島(きしま)正洋先生は「彼のすごいところは、目標達成に何が必要か考え、すぐに実践する行動力」と話す。

空手にも熱中、国体目指す

なぜ、こんなに研究を頑張れるのか。その秘密は、小学1年生から続けている空手にある。中学時代、北信越ブロック大会で優勝。現在、空手部に所属しながら、2018年、故郷の福井県で開催される国体での優勝を目指している。放課後は午後6時まで空手の練習、その後8時まで研究に充てる。「研究と空手、どちらも高い目標を持つことでバランスを保っているのかもしれません。2つあるからこそ、両方とも頑張れるのだと思います」

 空手と貝の研究を両立したくて、慶應義塾高校を選び、福井から上京。単身寮生活のため、帰宅後は家事もする。「好きでやっているとはいえ、貝の計測中に眠くなることも(笑)」

 現在、吉村君は論文を執筆中だ。高校在学中に、学会に提出し、正式に新種と認定されることを目指している。そして、さらなる未来の目標をこう掲げる。「将来は、法曹界への道にも興味があります。研究を続けながら法律も学び、文理の垣根を越えて活躍できる人材になりたいです」