受賞歴は一度もなかった

書の甲子園として知られる「国際高校生選抜書展」。第27回となる2018年大会は、世界12の国と地域から1万4458点の作品の応募があり、全国優勝校をはじめ、入賞入選作品2000点が選ばれた。

審査結果が発表されたのは、昨年11月27日。その内容を誰よりも心待ちにしていたのが、兵庫県立芦屋高校書道部の今城永深さん(いまきなみ・3年)だ。「発表の瞬間は嬉しすぎて、言葉が出ませんでした!ほんとに夢なんじゃないかと。優勝できて本当によかったです」。芦屋高校書道部として近畿地区優勝に輝くとともに、個人でも優秀賞を受賞するという好成績をおさめた。

今城永深さん(右)と書道部顧問の狩谷申子先生(左)

今城さんがそこまで喜ぶのにはワケがあった。同校書道部のなかでも一番の書道好きだったという彼女だが、ただの一度もコンクールでの入賞経験がなかったのだ。「同級生が続々と賞を受賞していたので、これまで本当に悔しい思いをしてきました。でも諦めずに、毎日ひたすら書を書き続けました」

一目で魅了された

今城さんが地道な努力を続けられたのは、芦屋高校書道部への愛着ゆえだ。出会いは中学2年生の夏。花火を観に訪れた「芦屋サマーカーニバル」で、芦屋高校書道部が出演していた書道パフォーマンスをたまたま目にする。

「めちゃくちゃすごかった。ダイナミックな動きもそうですが、一番惹かれたのは団結力です。強風が吹く中、みんなで書道紙をおさえながら書いている様子を見て、この部活に入りたいと思いました」

芦屋高校書道部は、2014年に約40年ぶりの復活を遂げたばかり。現在も書道部の顧問を務める狩谷申子先生を中心に、当時の生徒たちがゼロから復活に動いた。芦屋高校書道部には熱い思いがあるはずだ。パフォーマンス後、狩谷さんから復活のエピソードを聞いたときには、今城さんの心はすでに決まっていた。

芦屋高校書道部による書道パフォーマンスの様子

何をやっても上手くならない

芦屋高校に進学し、念願の書道部への入部が叶う。しかし今城さんを待っていたのは試練の日々だった。いくら書いても、ちっとも上手くならない。同級生がコンクールで賞を受賞しているのに、どうして自分だけ――。心が折れそうになっても、努力だけは止めなかった。

朝の始業前や授業の合間の10分休みなど、講師の狩谷さんの元へやってきては指導を請う。「書道パフォーマンスの才能はあるとは思っていましたが、普通の書は決して上手とは言えない。悩みすぎる性格の子だったので、それが字にも表れているように感じました。ただ、ガッツや意欲だけは誰にも負けない子でしたね」(狩谷さん)

自分の先を行っていたライバルたちの存在も、彼女の競争心を掻き立てた。泊まりこみの合宿や普段の練習から刺激をもらった。「(同級生も後輩もがんばっているので)自分もがんばらなと思って、ずっとやることができました」

「好きこそものの上手なれ」を証明

最後のチャンスと意気込んだ第27回国際高校生選抜書展で、努力がようやく報われた。「1、2年のうちは(結果が出なくて)全然ダメやった。(受賞の瞬間は)部員たちと泣いて喜びました」

また部の幹事として、部長らとともに練習の取りまとめも行ってきた今城さん。個人の受賞はもちろん、部活の目標であった近畿地区大会優勝を成し遂げられたのもうれしかった。「地区優勝校は、春のセンバツ(高校野球大会)の入場行進で使うプラカードに校名を揮毫することになっています。そこも目標にしていました」

仲間とともに、時に励まし、時に刺激をもらいながら駆け抜けた3年間。道のりは険しくとも決して逃げ出さず、地道に努力を続けた結果手にした栄誉だ。今城さんは高校生活の最後の最後に、「好きこそものの上手なれ」を体現できたのかもしれない。(山川俊行)

芦屋高校書道部の部員たち