オペラ「フィガロの結婚」の最終公演で主役のフィガロを好演する森下竜平君(3年・右)とキャストたち

焼津中央高校(静岡)合唱部は、全国的にも珍しい高校部活動でのオペラに40年以上取り組んでいる。定期公演は毎年6月に4日間開催する。演目選びから、衣装や舞台装置の製作まで手作りの舞台だ。6月17日に行われた最終公演を取材した。 (文・中田宗孝、写真・幡原裕治)

感極まり本番中に涙

44年目を迎えた今年のオペラ公演は、モーツァルト作曲の喜劇「フィガロの結婚」を日本語で歌い、演じた。全4幕で約3時間半の長丁場だ。18世紀のスペインを舞台に、伯爵家の使用人フィガロと恋人スザンナの婚礼をめぐる騒動が展開する。演者たちは、ピアノ伴奏に乗せ、役柄の心情を独唱(アリア)に込めて繊細に表現。劇中の会話部分は、チェンバロの音色に合わせて音程のついた独特のせりふ回しで物語を紡いだ。

ピアノの演奏は生徒が、チェンバロの演奏は顧問の先生が担当した

スザンナ役の亀澤空未(たかみ)さん(3年)は「先輩の舞台を支える裏方スタッフだった1年生の時は、覚えることが細かく膨大で、つらいと感じたこともありました」と入部当時を振り返る。それでも「(同部のオペラを観劇した)中学生のころから憧れたこの舞台に立つ、という思いをずっと忘れなかった」という2年間を経て大役に挑んだ。

伯爵を演じた部長の土屋雄大君(3年)は、フィナーレが近づくと感極まり涙がこぼれた。演技中に涙したのはこの舞台が初めて。「明るく終わる演目なのに、仲間や先生方への感謝の気持ちがあふれて……。みんなの思いが一つにつながるオペラができて幸せです」

会場に響く拍手の中でのカーテンコール。4日間4公演で3000人以上が観劇した

休み時間もハミング

日々繰り返し行う歌の練習を心底楽しめる、歌が大好きな生徒たちが集まる。休み時間の教室内でも部員のハミングが響き渡るという。「自由に歌っちゃいます。劇を見た同級生から『聞き覚えある曲多いよ』って(笑)」(池ヶ谷優希さん・3年)

オペラだけをするのが部の特色で、年一度きりの本番に向けて活動する。演目は話し合いを重ねて決めた。「登場人物たちの重唱が多く、稽古でも1人ではなくみんなでオペラをつくれます。部員同士のつながりを感じられる『フィガロの結婚』を選びました」(土屋君)

劇中のひとコマ

「一生もの」の仲間

本番の衣装や舞台装置の製作も部員が手掛ける。配役は立候補して顧問の先生たちとの面談で決定。4人の主要人物は、3年生が公演ごとに日替わりで演じる。昨年9月から本格的な稽古が始まった。

演者と演出助手を兼ねる池ヶ谷さんは、演技指導に熱が入り、部員に怒鳴り声を上げることもあった。「でも、誰一人反抗するような態度を取らず、私を信じてついてきてくれました。だから私も、みんなの気持ちに応えようと頑張れました」。オペラを通じて結んだ固い信頼関係。「『一生もの』の仲間たちなんです」と、池ヶ谷さんは誇る。

終演後のメインキャストの生徒たち
【部活データ】1965年創部。部員54人(3年生27人、2年生11人、1年生16人)。活動日は週6回。伝統のオペラ公演は、1975年に第1回となる「かぐや姫」を上演。その後「カルメン」「仮面舞踏会」など、さまざまな演目に挑戦してきた。