71人の大所帯をけん引してきた3年生部員

埼玉・県立浦和高校の男声合唱団「グリークラブ」は、10月の全日本合唱コンクール全国大会で初の金賞と1位に相当する文部科学大臣賞を受賞した。部の全国大会出場経験は2度だったが、金賞は先輩の代からの悲願だった。難曲を選び、諦めず重ねた努力が実を結んだ。(文・小野哲史、写真・幡原裕治)

「だるまに目を入れたい」

決してコンクール入賞だけを目指しているわけではない。しかし「全国大会での金賞は部の悲願でした」と、10月まで部長を務めた諏訪智也君(3年)は言う。「顧問の小野瀨照夫先生は、今年度限りで定年を迎えます。金賞受賞校にしか贈られないメダルを首にかけてほしかったからです」

部室には、9年前に全国大会で銀賞を受賞した先輩が残した「片目のだるま」がある。「全国大会で金賞を取ったら、もう1つの目を入れよう」と受け継がれてきた。「2年前の全国大会は銅賞で、果たせませんでした。『僕らの代が目を入れるしかない』という思いがありました」

ラテン語の難曲に挑む

クラブの特徴は、日々の練習を部員主導で進めていく点だ。全国大会の第1関門となる8月の県大会に向け、始動したのは今年2月。例年より3カ月ほど早めた。自由曲に選んだ曲が「不協和音で始まり、リズムが複雑で、最大20パートに分かれる部分もある。歌詞はラテン語」と、難易度が高かったからだ。

1日や1週間ごとの小目標、1カ月ごとの中目標などを設定し、ステップアップしていけるように綿密な練習計画を立てた。難しいほど燃える気質の部員たちだが、5月ごろには冗談半分ながら「曲を変えるなら今しかない」という声も出ていたという。

曲は変えず、個人やパートごとに分かれて技術を高めることに集中した。小野瀨先生の指揮のもと、自由曲を初めて全体で合わせたのは県大会直前の7月。なかなかうまくいかない苦しさはあったが、「こんな(難曲に挑み悪戦苦闘する)経験はしたことがないから楽しかったし、完成したらどんな曲になるのだろうという期待感が大きかった」と諏訪君は話す。

学年の垣根を越えた仲の良さがグリークラブの強さを支えている

 手作りテストで曲理解

課題曲も、4曲の中から最も難しいと思われるフランス語の曲を選んだ。諏訪君は、部員向けに作曲家に関するテストや小冊子を作成した。「ただ単純に歌うだけでは、歌わされているのと同じ。曲の理解を深めることで感情移入しやすくなりますし、より良い演奏ができる。曲に対する愛情も持てるようになったと思います」

完璧な合唱ができた

県大会と9月の関東大会を突破し、迎えた全国大会で、完璧と言える歌声を披露した。諏訪君は「パズルのように、たくさんのピースががっちりはまりました。この日のために『最高』という言葉があると感じました」と胸を張る。

全国大会で3年生は引退。新たな部長となった杉本滉歩君(2年)は「合唱に対する意欲や、感動を伝えるといった部分で日本一になりたい」と、今後の目標を掲げた。

前部長の諏訪智也君(左)と新部長の杉本滉歩君
小野瀨照夫先生
【部活データ】
部員71人(3年生16人、2年生27人、1年生28人)。全日本合唱コンクール全国大会2008年銀賞、15年銅賞。練習日は平日放課後の約3時間と土曜日の半日。演奏会やコンクールがない日曜日は原則休み。部員はほぼ全員が合唱初心者で、中学時代は運動部経験者が多い。モットーは「その演奏会のお客さまは、そのときにしかいらっしゃらない」。