試合をイメージして練習を重ねる緒方良行(久留米市のボルダリングジムで)

緒方良行(福岡・明善3年)が、イタリアで開かれたスポーツクライミングの世界ユース選手権ボルダリング部門(ユースA=1998〜99年生まれ)で初優勝。東京五輪追加種目への道を開いた。夢は「東京五輪でのメダル」。指導者はおらず、自ら練習計画を作り、はい上がる。
(文・写真 南隆洋)

日本の強さ証明

同大会は国際スポーツクライミング連盟(IFSC)主催で9月6日まで行われた。人工壁をロープを使わずに登り、完登数を競う同部門には94人が出場した。

 大会前に監督の小日向(こびなた)徹・日本山岳協会選手強化委員長から言われた。「この大会の成績が五輪追加種目決定に関係する。日本の強さを見せろ」

 予選、準決勝と1位で通過。6人が残った決勝では、緒方を含めた2選手が3つ目の壁をクリア。最後の壁の突起は、指先がやっと引っかかる程度の薄さだった。体の筋が限界に達するかという中、「落ちるものか!」と懸命にこらえて1回でクリアした。

 小日向監督の「よかったぞ!」の言葉に、「最後まで諦めずに集中できた」と自ら勝因を分析した。

練習法を自ら計画

小学5年の時、姉と一緒にクライミングジムの「体験教室」に行って、魅力に取りつかれた。

 「できないことが、できるようになるのがうれしい」

 高校生になってから競技を意識し、週5、6日、3時間壁に向かう。学校にスポーツクライミングの部活はなく、下校後は家からジムまで6キロの距離を自転車で飛ばす。

 指導者がいないため、ネットなどで世界のアスリートの練習法などを研究してきた。5キロの重し入りチョッキを着けての壁登り。小指1本でぶら下がり、体を地面と水平にしての体幹づくりなど。「大会をイメージして、5分単位のよじ登り」を積み重ねる。夕食では、炭水化物を一切食べない。納豆、肉、野菜中心の食事で絞り上げた体ができた。

夢は東京五輪

高校は県内有数の進学校で、課外授業のため、午前6時には家を出て、帰宅は午後7時ごろ。「大会に集中したい」と思いながら、試験前には遠征先に教科書や参考書を持っていく。短時間の睡眠で「文武両道」を貫く。東京五輪の年は22歳。「世界のトップ」という夢に向かって、はい上がる。

世界ユース選手権で頂点に立ち、喜ぶ緒方(中央、9月1日=日本時間、イタリア・アルコで)=本人提供

おがた・よしゆき 1998年2月4日、福岡県久留米市生まれ。同市・屏水(へいすい)中出身。中学3年から国体に4年連続出場。昨年はリード、今年はボルダリングとリードで個人トップ。今年の世界ユース選手権ではリードで7位。大人を含むワールドカップでは昨年のカナダ・トロント大会でボルダリング14位。169センチ、54キロ。両手を広げた長さ180センチ、握力左55キロ、右60キロ。

スポーツクライミング 突起物がちりばめられた人工の壁を手と足で登る競技。IFSC認定の公式種目として(1)ボルダリング(5メートル以下の複数の壁を登る数を競う)(2)リード(12メートル以上の壁を登る高さを競う)(3)スピード(10〜15メートルの壁を登る速度を競う)がある。筋力や柔軟性、瞬発力、バランス力だけでなく、登るコースを読み取る頭脳と判断力が勝敗を分ける。9月末、東京五輪の追加提案5競技の1つに選ばれた。来年8月の国際オリンピック委員会(IOC)総会で正式採用されるかどうか決まる。