シリアのアサド政権軍が化学兵器による空爆を行ったとして、米国は4月6日夜(現地時間7日未明)、化学兵器攻撃の拠点とされる同国中部のシャイラト空軍基地を巡航ミサイル・トマホークで攻撃した。これに激しく反発しているのがロシア。シリア問題の進展には米ロの歩み寄りが不可欠だが、進展は当面期待できなくなった。

 Q  なぜ空爆したの?

地中海に展開中の米海軍の駆逐艦2隻が59発を発射、うち57発が目標に命中したとされる。シリア内戦開始後、米国がアサド政権への軍事攻撃に踏み切ったのは初めて。トランプ大統領は「アサド大統領は化学兵器で市民を虐殺した」と激しく非難、「化学兵器の拡散阻止が米国の安全保障にとって重要」としている。

一方、旧ソ連時代からシリアと友好関係にあり、アサド政権の後ろ盾となっているロシアは「国際法違反」として反発、シリア内戦は泥沼化する恐れが出てきた。

 Q  国際社会の対応は?

米国などはシリアの化学兵器使用を非難し、アサド政権に化学兵器禁止機関(OPCW)の調査受け入れを迫る決議案を国連安全保障理事会に提出したが、ロシアが拒否権を行使、廃案となった。理事国15カ国のうち米英仏や日本など10カ国が賛成、ロシアとボリビアが反対、中国などが棄権した。シリア内戦をめぐり、欧米主導の決議案にロシアが拒否権を行使するのは8回目となる。

本来、世界の平和と安全を維持するべき場である安保理は、シリア内戦の打開策を協議するのではなく、米国とロシアが非難し合う場と化した。

 Q  米ロはなぜ介入するの?

シリアでは、中東民主化運動「アラブの春」が波及した2011年3月から反政府デモが本格化。反体制派がアサド政権への武装闘争を始め、内戦に発展した。この混乱の中で過激派組織「イスラム国」(IS)が台頭。アサド政権を支持するロシアは、テロとの戦いを名目に15年9月に軍事介入に踏み切ってアサド政権への軍事支援を続け、民主化を理由に反体制派を支援する米国と対立している。内戦の死者は40万人以上とされる。

 Q  今後はどうなる?

外交・安全保障政策で「力による平和」を唱えるトランプ政権は、シリア情勢の打開に向け強攻策を実行した。ロシアなどとの和平協議に軸足を置いたオバマ前政権の路線と決別を宣言した形だが、今後、シリア問題の和平協議のプロセスをどう進めるかのシナリオはまったく見えなくなった。

 MEMO 
 シリアの化学兵器 1970年代から開発してきたとされ、猛毒のサリンや神経剤VXなどを保有していたが、米国の圧力を受け2013年に化学兵器禁止条約に加盟、OPCWは16年1月に化学兵器の廃棄を完了した。だが、内戦下で化学兵器攻撃は後を絶たず、OPCWなどは昨年、政権軍が15年3月などに使用したとの報告をまとめた。アサド政権は一貫して使用を否定している。