川﨑理玖君(幡原裕治撮影)

川﨑理玖君(東京・筑波大学附属駒場高校3年)は7月28日から8月4日までイランのテヘランで開かれた「第29回国際情報オリンピック」(IOI2017)に日本代表の一人として参加し、全参加者の4位の得点を挙げ、金メダルを獲得した。川﨑君は、昨年の国際大会にも出場し、銀メダルを獲得している。情報オリンピックの魅力や国際大会の様子などを聞いた。

金メダルは最大の目標だった

――情報オリンピックを知った時期やきっかけを教えてください。

中学入学後に入ったパソコン研究部で、情報オリンピックに熱心に取り組んでいる先輩がいました。最初は周りにやっている人がいるからぼくもやってみようかな、という程度の気持ちで始めましたが、中2以降は前年度の成績を超えようという目標を掲げて取り組んできました。

――高校2年、3年と国際大会に連続出場していますね。

高1の終わりに行われた日本代表選考合宿で、高2の夏の国際大会への出場が決まりました。この時は、合宿への参加資格を得ることそのものもが目標だったので、国内代表に選ばれたことで、もうひとつ上の目標を一気に手に入れたという感じでした。でも初めて国際大会に行ってみると、コンテスト慣れしていなかったというか、焦ってしまって。問題に歯が立たなかったというわけでもなかったのに44位(編集部注・全308人中の順位、銀メダル獲得)という振るわない成績だったので、心を折られました。その後、もう一度自分に足りない部分を見つめ直して、苦手な分野をつぶし、時間内に解ききろうと努力して、今年は最大の目標である金メダルを獲得できました。金メダルを手に入れた瞬間は、本当にうれしかったですね。

問題の考察とソースコードへの翻訳に頭を使う

――情報オリンピックの魅力は?

情報オリンピックは、人の思考力とコンピューターの計算能力をうまく組み合わせて問題を解く競技です。人間の思考結果をソースコードに翻訳し、コンピューター上で再現できるようにすることで、初めて得点が得られます。問題の考察が足りなくても、また、思考をソースコードに翻訳することができなくても、得点は得られません。問題の考察にもソースコードに翻訳する時にもどちらにも頭を使わなくてはならないところが、他の教科との違いであり、ぼくが魅力を感じるところです。

――今年の国際大会はどうでしたか?

競技1日目では、ここ数年では全く出題されていなかったタイプの問題が出題され、大変当惑しました。そのせいか、その日はあまり得点を伸ばせませんでした。2日目は、一つの問題に時間を浪費したうえ、その問題で満点を獲得できず、焦ってしまいました。ですが、コンテストが30分延長されたおかげで、終了3秒前に残りの問題の満点を獲得できました。

観光のスケジュールがきつすぎた

――競技以外は?

国際大会では現地の観光旅行なども組み込まれているのですが、今年はそのスケジュールがタイトすぎて疲れてしまいました。朝5時出発といった企画もあり、それには、ぼくと髙谷悠太君は朝寝坊して行けなかったくらいです。2018年の国際情報オリンピックは日本で開催予定ですが、もっとシンプルに選手間同士のコミュニケーションがとれるような催しがあればいいなと思っています。

――海外の選手とのコミュニケーションはとれましたか?

相手が言っていることはある程度わかったのですが、自分の言いたいことが伝えられなくてもどかしかったです。国際大会帰国後、海外出張の多い父と家で英語で会話をする時間を一日5分程度とるようにしています。まだ、始めて3日くらいですけど(笑)。

学校ではパソコン研究部

――普段の生活は?

基本的に宿題は出ないので、学校の勉強は授業に出るだけです。所属しているパソコン研究部では、情報オリンピックの問題に取り組むことが多かったですね。過去問は問題数がそれほどないのですぐに終わってしまうので、似たような問題を探したりして。学校から帰ってきたら授業のことは全部忘れて、情報オリンピックの問題を解いたり、疲れたらネットサーフィンをしたり、漫画を読んだりしています。

――学校の友達とは漫画の話なんかで盛り上がるのですか?

そうですね。でも最近は、みんな受験モードに入ってしまって、なかなかそういう話をしてくれなくなりました(編集部注・取材は8月)。僕自身は、「まだ受験勉強はしなくてもいいだろう」みたいな根拠のない自信があって、なかなか受験モードになれないでいるのですが。ただ、受験英語だけはきちんと勉強しています。

――将来は?

情報系のことを研究したいとは思っていますが、今はまだあまり深く考えていません。

――科学オリンピックへの参加を考えている後輩にメッセージがあれば。

自分の実力と目標との距離感を多く見積もりすぎないこと。ぼくの場合は、高1の春には、代表になるなんてもう少し先だと思い込み、とりあえず合宿の参加資格を得ようと思ってしまったけれど、その時に代表になれてしまった。自分がとても届かないと思っているところが、実は自分の手の届く距離にあったんです。もしあの時、目標と自分の実力との距離感を正しくとらえて最初から代表を目指して参加していたら、高2の時の不本意な結果ももう少し違うものだったかもしれません。だから、自分は届かないと思い込まずに、高い目標に自分は届くと信じて、やりたいことをやり続けるといいと思います。

(取材・構成 山口佳子)