スーパーサイエンスハイスクール(SSH)生徒研究発表会が8月9、10の両日、神戸市で開かれ、206校(SSH指定終了校3校含む)が研究成果を発表した。文部科学大臣表彰には兵庫・加古川東高校の「微小重力下での濡れ性を利用した管内流の制御」が選ばれた。(文・写真 野村麻里子)

発表した加古川東高校の生徒たち。背負っているのが開発した実験装置

微小重力でも使えるピペットを作りたい

発表したのは、同校の自然科学部物理班微小重力チームの5人。同校教員の友人であるNASA(アメリカ航空宇宙局)職員から「国際宇宙ステーション(ISS)では液体が地上とは異なる動きをするため、一般的なピペットを使えない」と聞いた。そこで、ISSのような微小重力(ほとんど重力がない状態)でも使えるピペットを開発できないかと考えた。
 微小重力の環境では、固体と液体が相互に引き付け合う性質である「濡れ性」がはっきりと現れると知った。この濡れ性を利用して、ピペットのような管の内部の液体の流れを制御できないか実験することにした。

校内で微小重力を再現する実験装置を制作

学校で、180センチのロケットにアクリル管や撮影用カメラを搭載した実験装置を制作し、校舎の4階から落下させることで、微小重力の環境を再現。低価格で精度の高い実験を実現した。実験の結果、濡れ性を利用して管内の流れを制御することに成功した。
 実験結果を利用して「宇宙ピペット」をデザインした。今後は、実際に宇宙ピペットを作成して、微小重力下で実験をすることなどを予定している。審査員は「非常に工夫された実験。装置を手作りして実験課題に迫っていった点、チームワークで大規模な実験を実現した点などが評価された」と話した。

チームワークが大事「尊敬しあう関係」

リーダーを務めた頃安祐輔君(3年)は、役割分担とチームワークが研究の要だと明かす。理論構築が得意な人、実験装置などを作る技術力がある人、数学が得意な人など、それぞれ得意なことを結集させたチームプレーで研究をしてきたという。「僕は理論を担当したが、実験装置ができなければ研究は成り立たず、(実験器具作成を担当した)技術担当を尊敬している。尊敬の関係があれば(グループ研究は)うまくいくのでは」

高井みくさん(2年)は、「実験データが得られたとき達成感を味わった」と振り返った。実験は丸一日かかるがパソコンの調子が悪いとデータが取れず、取れても十分でないデータだったり、実験装置が壊れたりしたこともあった。「『次こそいけるんじゃないか』と繰り返して、最後にデータを得られた時は、みんなでやったーと言いました!」
 今後は2年生が中心となり、実験を進めていくという。「本当に宇宙ピペットが作れたら役に立つと思うので、企業などに提案できたらいいな」(高井さん)

リーダーの頃安祐輔君