夏に雪辱誓う

3月21日から4月2日まで甲子園球場で開催された第86回選抜高校野球大会(センバツ)。21世紀枠で27年ぶり17度目の出場となった海南(和歌山)は、開幕直前にエースの大けがというアクシデントに見舞われたが、チーム一丸となって戦い、スタンドの感動を呼んだ。 (文・高野想)

恩返ししたい

海南はグラウンドを他部と共用して練習している。スペースが狭いため、学校の中庭からグラウンドに向かってノックをするなど練習環境が良いとはいえない。そのハンディを練習量でカバーして昨秋の県大会で準優勝。21世紀枠でのセンバツ出場校に選ばれた。

大会直前の3月16日、晴れの舞台を控えたチームに苦難が襲いかかる。エースで4番の岡本真幸(3年)=和歌山・楠見中出身=が、練習試合で右手に打球を受けて骨折。センバツ出場が不可能になった。

控え投手の武田洸輝(3年)=同・下津二中出身=は岡本と抱き合って泣き、岡本から帽子のひさしの裏に「この一瞬、楽しもうよ」と書いてもらった。「一緒に戦おうという気持ちだった」という。

もう一人の控え投手、神崎稜平(3年)=同・亀川中出身=は「岡本がいたから甲子園に来られた。岡本に恩返しがしたい」。こう言って、22日の池田(徳島)との1回戦の先発マウンドに上がった。

裏方に徹した

4万4000人の観衆を前に、神崎は力投した。7回まで被安打1の無失点。打線は2番・空山侑大朗(3年)=同・海南中出身=の2打点の活躍などで7回まで3-0と勝利目前まで迫った。

しかし、8、9回に2点ずつを失ってサヨナラ負け。32年ぶりの甲子園勝利は、するりと手からこぼれた。

「最後は勝ち急いでしまった。終わったのかなと思うと悲しい」と神崎は寂しそうにつぶやいた。岡本の穴を完全に埋めることはできなかった。だが、大黒柱不在で奮戦した海南ナインには、勝者の池田にも負けない拍手が送られた。

ベンチで声をからして仲間を励まし、裏方に徹した岡本は「みんなよくやった。けがをする前以上の投手になって甲子園に帰ってきます」と夏での雪辱を誓った。

チームデータ 1925年創部。部員31人。2008年に大成と統合。甲子園出場は夏4度、春は大成の2度を含め17度。春夏通算でベスト4が2度、ベスト8が5度。