文部科学省の河村さんから話を聞いた

海外留学する高校生、大学生を2020 年までに倍増させる――。そんな目標を政府が掲げている。どうして高校生に留学させたいの? 高校生記者3人が文部科学省を訪ね、国際教育課課長補佐の河村裕美さんから話を聞いた。
(聞き手・谷桃子、関根綾香、原啓輔)

進路の選択肢が広がる

――高校生の留学を推進しているのはなぜですか。

「高校生は15歳から18歳。将来何をしたいのかを考え、価値観がつくられる時期です。中学生までは親や友達がいいと言ったものをいいと思います。高校生は、『私はこう思う』というのがはっきりする年齢です。そのときに日本にいたら、(周囲に)同じような環境で育つ人が多いので、なかなか『自分が本当にそう思っているのか』が分かりません。海外に行くと、全く違う文化、価値観に触れることができます。そこであらためて『自分はどういう人間なのか』『日本はどういう国か』を勉強できます」

「進路選択にも影響します。日本の高校にいたら、日本で就職するか、進学するかの選択肢ですが、高校時代に海外に留学すると、海外で進学や就職をするという新たなキャリアパスができて、選択肢が広がります」

「大学生になると『知らないことが恥ずかしい』という気持ちが強くなりますが、高校生は知らないことも素直に質問できて、その分、たくさんのことを吸収できます。だから高校時代に行ってほしいと呼び掛けています」

――外国の文化を知らないため、なじめないのが不安で留学をためらう高校生もいます。 

「不安な人には、インターネットで情報や体験談がたくさん出ています。経験者に学校に行って話していただく機会を国も支援しています。教室に一人は留学経験者がいて、(体験を)聞けるようにしたい。(留学者数の目標の)6万人になると、そのくらいになると思います。留学経験者が増えれば、不安に思う人が減ってくるのではないでしょうか」

語学力は関係ない

――短期留学と長期留学のどちらを薦めますか。

「まずは短期で行って、『自分は海外で生活していけるか』を確かめた上で、1年間の長期留学に行くのが自然ではないかと思います。長期で行くのは大学に入ってからでも高校の時でもいい」

――留学に向いているのはどんな人ですか。

「一つは、好奇心が旺盛な方でしょうね。『知らないことを知ってみたい』『私ってどういう人間なのか知りたい』という人には向いていると思います。実は、語学力は本当に(留学の適性に)関係ないのです。中学3年生までの英語をちゃんと勉強している高校生なら、単語をつなげば日常会話はほぼできます。ネーティブのきれいな英語を聴き過ぎて『うまく発音しなきゃ』『難しい単語を使わないと通じないんじゃないか』と思っている人が意外に多いのですが、気にし過ぎることはないのです」

 

楽しいものじゃない

――留学を考える高校生に伝えたいことは。

「ぜひとも知っていただきたいのは『留学は楽しいものじゃない』ということです。友達ができないこと、言葉が通じないこともよくあります。留学から帰ってきた人たちは、苦労を乗り越えているので楽しい経験ばかり話すと思いますが、(その前に)最初の壁というものはあります。それを乗り越えて得られるものは大きい。これは経験するしかないものです」 「日本で当たり前と思うことが、世界では非日常。そういうことがたくさんあります。逆に、世界で当たり前のことが、日本では非日常ということもあります。そこをちゃんと知った上で、自分がどういう職業に就くのか、どういう人生を歩むか、考えるきっかけになるのが留学じゃないかと思います。それは、旅行では無理です。それに、お父さん、お母さんといったん離れるのもいい経験ですよ(笑)」

取材を終えて

留学と聞くと、言葉の壁など不安を抱える高校生が圧倒的に多いだろう。私も何度も短期留学を考えたが、結局勇気を出せずに受験期を迎えてしまった。だが今回の取材で、異文化に飛び込む意義を知った。大学では留学したい。(谷桃子・3年)

私は昨年、イギリスに10 日間ホームステイした。不安もあったが、精神的に大人な現地の高校生に刺激を受け、積極性が芽生えた。その経験から河村さんのお話に納得できる部分が多かった。見知らぬところに行くのは勇気がいるが、留学にチャンレジしてみるのはいいことだと私は思う。(関根綾香・2年)