社会が大きく変化する中、国立大学も変わり続けている。全国の国立大学でつくる国立大学協会の会長を務める里見進・東北大学総長にインタビュー。教育や入試はどう変わるかを聞いたほか、これから進路選択をする高校生へのアドバイスも語ってもらった。
(聞き手・西健太郎、写真・幡原裕治)

さとみ・すすむ
1948年、沖縄県出身。那覇高校、東北大学医学部卒業。医学博士(東北大学)。東北大学医学部第二外科教授、病院長、副学長などを経て、2012年から東北大学総長。日本外科学会理事長も務めた。14年から国立大学協会会長。

国際的な素養
誰にでも必要

──国立大学を目指す高校生の中には、大学での勉強がどのようなものか、詳しく知らない人もいます。大学ではどんな教育をしているのですか。

どの大学も次の3点をふまえて教育をしています。

1つ目は、幅広い教養を学ぶことで、判断力を身に付けてもらうことです。社会に出れば、答えが一つに定まらない問題にたくさんぶつかります。さまざまな問題に対し、自分で考え、判断できる学生を育てたいと考えています。

2つ目は、専門性です。学部でも本格的な専門教育科目を学びますが、学部から大学院へと進む中で特に専門性を深めることが求められます。将来の職業に直結するような学問もありますし、すぐに役立つようには見えない学問もあるかもしれません。幅広い教養を基盤として専門性を深めることで、社会で生きていくうえでの立脚点、軸(基準)が形成されます。大学での勉学を通してそのような基準を形成することが大切です。

3つ目が国際性です。国際的な機関や企業で働く人に限らず、国内のどこに住もうと、どんな職業に就こうと、国際的な視野をもって判断することが必要な時代になります。地域の問題を解決する場合も、国際的な動向までふまえたほうがより良い判断になりますし、地域に貢献する企業にも、国際的に通用する技術などが求められます。国際的素養は誰にとっても必要になります。

──授業はどのように行われていますか。

各大学は教育改革を進めています。一方的な講義形式ばかりの授業をしている大学は今やほとんどないでしょう。学生が自分で設定した課題に取り組んだり、議論をしたりする形式の授業を多くの大学が導入するようになっています。こうした授業は、思考力や判断力を育てる意図があります。

自分自身の考え
鍛えてほしい

──育てたい学生像が、時代に合わせて変わっているのでしょうか。

自分の意見をしっかり持ち、色々なことに判断できる人でなければ、これからの国際化の時代では通用しないのではないか。そう考え、議論し、判断する力を授業の中で付けてもらおうとしています。

社会が大学を卒業した人に求める力も変化しています。大学も社会の中の存在です。すべてを社会に合わせることが良いとは思いませんが、学問の自由などの大事なことは守りながら、社会の要請に応えていきたいと考え、改革に取り組んでいます。国際性や地域との結びつきを考えながら、これまでなかったような新しい学部を創設している大学もあります。

──学生には、どのように大学生活を過ごしてほしいですか。

大学の特徴は「多様性」であり、色々な考え方を持った人がいることです。そのような場所で、議論をしたり、もまれたりする中で、自分自身の考えを鍛えることが大切です。大学に入ったら、今の自分には難しいと思えることでも、先生や先輩、友人と一生懸命議論をしたり、本を読んだりして挑戦してほしいと思います。

少し「背伸び」をして挑戦する、学生時代のそのような経験は、その時はあまり身につかなかったと感じるかもしれませんが、将来さまざまな判断をするときに役立ちます。私自身も学生時代に悩んだことなどが後になって役立ったと感じています。

国立大学は、より多様性のある大学にしようと、女子学生と女性教員、社会人、外国人留学生、それぞれの割合を増やす目標も掲げています。皆さんには、大学の「多様性」を活かして豊かな大学生活を送ってほしいと思います。

推薦・AO入試など
定員の30%に

──国立大学協会は、入試改革を目標に掲げています。

確かな学力と多様な資質を持った入学者を受け入れるために、国立大学協会では推薦入試、AO入試などの入試の定員を数年以内に全体の30%とする目標を決めました。

東北大学では志望動機を明確にさせた上で、学力をきちんと評価するAO入試を実施していますが、追跡調査では、一般入試の入学者と比べて、入学後の成績が良い結果が出ています。現在定員の20%程度をAO入試で受け入れています。数年以内に30%に増やす計画です。

ただ、きめ細かい面接や集団での討論、小講義後の論文など、「丁寧な入試」には非常に時間も人手もかかります。東北大学でも、現在の人員では30%を超えて増やすのは難しい状況です。入試に労力をかけすぎることで、学生への教育がおろそかになると本末転倒です。国立大学協会で決めた30%は、そういうことも考慮した数値です。

国立大学の入試では基礎学力を重視しています。多くの大学がセンター試験で5教科7科目を課しているのは、幅広く学んでいないと、大学で専門を深めることもできないと考えるからです。高校生にはできるだけ幅広いことに興味をもって学んでほしいですね。

社会とのかかわり
考えて進路選択を

──大学・学部選びで悩む高校生が少なくありません。

18歳の時期に将来のことを考えて決めるのは大変だとは思います。ただ、高校生の中には、自分と社会とのつながりを考えることなく、受験勉強だけをしている人もいるのではないでしょうか。大学進学は、自分の将来進むべき道を決めることにもなりますので、社会で起きている問題について考え、自分が社会とどうかかわり、どういう役割を果たしたいのかをよく分析したうえで、そのようなことが学べる学部や大学を選んでほしいと思います。

いまだに偏差値を基準に大学や学部を決めることがあると聞いています。これからの国際社会では、どこの大学出身かではなく、その人個人の本当の実力で評価される時代になります。高校生の皆さんには、そういう時代を見据えて、自分が本当にやりたいことを基準にして大学・学部を選んでほしいですね。