中央大学 理工学部人間総合理工学科 応用認知脳科学              檀 一平太教授

新しい技術の開発やものづくりを支える理工学のおかげで私たちの暮らしは豊かで快適なものになってきた。しかし、多様な課題が次々と現われる中、理工学も「人」を中心に理解すべきなのではないか。そんな考えから2013 年4月に開設されたのが、人間総合理工学科だ。

檀一平太教授の応用認知脳科学研究室では、「脳と食」の関わりについて探究している。「たとえば、脳の機能を利用しておいしく感じる食品を開発する、なんていうテーマ、面白いでしょう」と檀教授は楽しそうに話し始める。

その研究を進めるためには、脳が食品をどのように味わっているのか、つまり、脳のどの部位がどのように活動しているかを正確に把握し、計測する技術が必要だ。「最初、頭の上から近赤外線を当て、脳の働きを観察する技術を進化させることに取り組みました。光トポグラフィといって、MRIのような大がかりな設備がいらず、ふつうの環境で計測できるのです」

医療分野で注目を浴びる技術に育ったが、「人がどんなことを考えているか」を把握できる技術ではない。そこで次に取り組んだのが、脳内の情報を抽出する方法を見つけることだ。「研究の結果、サイコメトリクスという方法にたどりつきました。徹底的に練られた質問を通じて、ヒトの思考パターンを解析するものです」

回答結果を統計学的な手法で処理し、数百人から数千人分のデータを集めることで共通の思考パターンがわかるのだという。

このサイコメトリクスを活用したマーケティングはすでに、㈱ニチレイフーズや㈱サイゼリヤといった企業のメニュー開発やネーミングなどで実績をあげている。

人間総合理工学科には、「人を知る・測る」「人と生活環境」「人の健康」「人と物質エネルギー」という、「人間」を軸にした4 つの領域があり、それらを横断して学ぶことで「豊かな暮らし」の実現に貢献できる人材を育成する。

1 年次は基礎力を高めながら専門課程への導入科目を学び、2 年次には専門領域の基礎と技法を学ぶ。3 年次の演習ではチームで課題に取り組む授業により、課題設定解決能力を習得し、4 年次は卒業研究に専念する。

「グローバル化の進展や、震災後の日本の活力を作り出す気運の高まりの中で、あらゆるものごとが高度化、複雑化しています。理工学系のバックグラウンドと柔軟な論理的思考を持つ人材のニーズは、ますます高まる」と語る檀教授は、これからも企業とのコラボレーションで日本の食品産業を盛り上げていきたいと言う。そして、「研究は、誰かの役に立たなければ意味がない。自分のやるべきことにきちんと向き合い、追究していってほしい」と、メッセージをくれた。

【 檀 一平太(だん いっぺいた)】
東京都生まれ。1993年、国際基督教大学教養学部理学科卒業。1999年、東京大学大学院総合文化研究科博士課程中退。日本学術振興会特別研究員、科学技術振興事業団研究員、独立行政法人食品総合研究所(農研機構)主任研究員、自治医科大学医学部先端医療技術開発センター准教授等を経て、2013年より中央大学理工学部教授。2007年、味覚記憶の脳機能イメージング研究により安藤百福賞発明発見奨励賞受賞。