山尾君(写真右)のヘルメットを子どもにかぶせるとたちまち笑顔に(山尾君提供)

「防災士」の資格を持つ山尾輝斗君(兵庫・小野工業高校定時制1年)が5月2日から8日まで、熊本地震の被災地を訪れた。物資の配布や避難所支援、がれきの撤去作業などの支援活動に力を尽くした。
(新海美保)

地元で物資集め避難所へ

「熊本でできるだけのことをしたい」。その思いが山尾君を動かした。

中学2年時に防災士の資格を取得した山尾君は、兵庫県の防災士の男性と共に5月2日朝に熊本県に到着。特に被害が大きかった益城町に入り、日本防災士会の支援本部を拠点に、救援物資を配り始めた。

配ったのは、地元の消防団員から預かったタオル2500枚のほか、高校の先生や近所の人らが集めてくれた水や食料など。全国から駆けつけた防災士とともに複数の避難所を回り、避難者一人一人に手渡ししながら、体調を尋ねたり、悩みを聞いたりした。

「長引く避難生活で疲労がたまっている人が多く、体調が急変して目の前で亡くなる人もいた」。避難者の厳しい生活環境を垣間見た。

子どもたちを元気づけたい

山尾君は、余震が続き外で遊べなくなってしまった子どもたちが元気を失っているのを見て、防災士のベストを着せてあげるなど交流し、元気づけた。

「地震に対する恐怖心からか、こわばった表情の子もいた。ヘルメットをかぶせてあげると笑顔を見せてくれた」と、子どもたちの心のケアの重要性を実感した。

また、防災士の資格を生かして、特定の訓練を受けた人しか入れない立ち入り禁止区域で、崩れ落ちた屋根瓦や割れたガラスの収集、大きながれきの撤去作業を行った。

多くの人命を救うために

防災士の資格を取得したきっかけは、小学5年生の時。養護の先生が持っていた応急手当普及員の認定証に憧れ、市民救命士の資格を取った。その後、公園で腕を骨折した人と偶然出会い、応急処置をしたところ、後日「完治した」との連絡とともに感謝の言葉が寄せられた。

人を救う意義を知った山尾君は「より多くの人の役に立ちたい」と、中学2年時に応急手当普及員に。2014年の兵庫・丹波豪雨や広島土砂災害で支援活動に当たった。

定時制の夜間授業を受けながら、平日の昼間や週末は、建物の解体工事の仕事や地域のスポーツイベントなどでの救護ボランティアに力を入れる。心肺停止のランナーを心肺蘇生法で救ったことがある一方、目の前の急病人を助けられずに苦い思いをした過去もある。

「将来は、救急救命士の資格を取り、より多くの人の命を救う仕事に就きたい」。熊本での経験を通じて、その思いを新たにしている。

山尾君に一問一答
――避難所で印象に残っていることはありますか?

合わせて10カ所ほどの避難所を回りましたが、物資の配布にあたっては管理者の方に預けるだけでなく、避難している方一人一人に手渡しで届けられるよう心がけました。そして、避難している方の負担にならない程度に体調を尋ねたり悩みを聞いたりしました。長引く避難生活で疲労が溜まっている人が多く、話を聞いているうちに涙を流す人もいました。余震のたびにパニックになったり、体調が急変して目の前で亡くなる人までいたりと、衝撃を受けました。

――被災地では防災士として一般のボランティアではできない活動も行ったそうですね。

今回の熊本地震では、2011年3月の東日本大震災のときのように街全体が津波で流されるという被害ではなく、断層の周辺の家や建物などが壊滅的な被害を受けていて、特に瓦屋根の家の被害が特徴的でした。余震が続く中、特定の訓練を受けた人しか入れない立入禁止区域で、崩れ落ちた瓦屋根や割れたガラスの収集を行いました。大きながれきの撤去作業にあたっては、チェーンソーを使う場面もありました。

――緊急支援に関心を持ったきっかけは?

小学5年生のとき、養護教員の先生が持っていた応急手当普及員の認定証に憧れたのが最初のきっかけです。普通救命講習を受けて市民救命士の資格を取り、その後、公園で腕を骨折した人と偶然出会い、応急処置をしたところ、後日連絡をもらい熱烈に感謝されました。そのころから「もっと多くの人の役に立ちたい」と思うようになりました。そして、中学2年時に応急手当普及員になり、2015年3月に防災士の試験に合格しました。

――被災地での活動は今回が初めてではないそうですが、熊本以外ではどんな支援活動に携わりましたか?

2014年の丹波豪雨や広島土砂災害で支援活動に従事しました。津波や地震などの災害が起きたとき、むやみに物資を送ると迷惑になるという声もありましたが、これまでの被災地での経験から、水やタオルはいくらあっても役立つと確信していました。しかもタオルは新品ではなく一度使ったもののほうが吸水性が良いため、地元の消防団の方にお願いして、一度使ったタオルを集めて持って行ったところ、すごく喜ばれました。

――学校との両立は大変では?

定時制の夜間授業に通うかたわら、平日の昼間や週末は、建物の解体工事の仕事や地域のスポーツイベントなどで救護ボランティアをしています。心肺停止のランナーを心肺蘇生法で救ったこともあります。

MEMO
防災士 NPO法人日本防災士機構が認定する民間資格。研修を受けて災害に関する知識や技能を習得し、試験に合格することで取得できる。日頃から地域の防災意識を高める活動に当たり、災害時には、地域や企業・団体の要請を受け、救助や避難所運営などに取り組む。