2024年4月に2つ同時に誕生する千葉工業大学の新学部「情報変革科学部」と「未来変革科学部」。それぞれの学部・学科に所属する先生に高校生記者が特別に取材した。今回登場するのは、生物の脳をモデル化し、生物と同じように学習するアルゴリズムについて研究している山口智教授(高度応用情報科学科)だ。

山口智先生と高校生記者のゆめさん

生物の生態や進化の仕組みをコンピュータで再現

私の研究は、「進化アルゴリズム」「学習アルゴリズム」の2本立てです。

まず、進化アルゴリズムは、生物の生態や進化の仕組みをモデル化して、適切な問題の解答を求めていく研究です。たとえばミツバチは、巣から花畑に蜜を採りにいく時にハチ同士で情報をやり取りして、より蜜の多いところにたくさんの仲間を呼び込んでいくという行動をします。こういう生物の行動原理をモデル化して、より優れた解をコンピュータ上でどんどん探させていくと、私たち人間には思いもよらない問題の解決策を、コンピュータが提示してくれることもあるんです。

次に、学習アルゴリズムという分野の説明をしましょう。これは、生物の脳をコンピュータ上にモデル化すること。脳をモデル化することができれば、それを使って生物と同様な学習をするコンピュータが実現できるんじゃないかと考えています。

たとえば、インベーダーゲーム。プレイヤーは自機を右や左に移動させながらミサイルを打って、敵を倒していくゲームです。

ゆめさんは初めてインベーダーゲームをプレイした

師匠の真似をして仕事を覚えていくAI

私たちは、何度かプレイしているうちに、何となく動き方がわかってきます。これって人間の特性で、画面全体を見ながらやっているとわかってくるものなんです。

だけど、ひとつひとつの動き、たとえばミサイルが飛んで来たら右に避ける、または左に避ける、余裕ができたら自分からミサイルを打つ、というようにルールとして取り出して、コンピュータに指示を出そうとすると結構大変なんです。ルールをどれだけ細かくしないといけないのか、それが十分足りているか、なんてことはわからない。

だったら、機械にも学習させられたらいいのではないか、というのが学習アルゴリズムの出発点。コンピュータに学習させるというのが私の研究です。50回やらせてみたコンピュータはすぐにやられてしまいますが、3500回までやらせてみたら、結構長続きする、というような具合です。どんどん賢くなっていきます。

このような学習アルゴリズムの研究は、他にも使えることがあると思っています。

たとえば、職人のお仕事。弟子は師匠の真似をして、ものを覚えていきますよね。同じようなことが、学習型アルゴリズムや学習型のAIだったらできると思います。

研究には、なかなか終わりというのはなくて、何かができると、その先というのがまた新しく見えてきます。将来的には人と同等な能力を持つコンピュータというのができればいいなと、考えています。

 

ゆめ

学習・進化アルゴリズムは最初は「とても複雑で難しそう」という印象でしたが、解説を聞いていくうちにその面白さが少しづつ伝わってきました。人間が「勘」や「感覚」で行っているようなことがコンピュータ上でも再現できるようになっていったりすることは、とても不思議で興味深かったです。また、研究にはゴールが無く、また新しい目標や課題が見つかる、というお話も、研究の面白さやそれ続ける山口先生の凄さの表れでもあるように感じました。

 

提供:千葉工業大学