毎年、鎌倉女子大学の学園祭と共に行われる「お弁当甲子園表彰式」が、キャンパスの木々が紅葉に色づく一歩手前の11月2日(日)に行われた。全国365校12,166作品から選ばれた上位受賞者たちが大学キャンパスに集い、その喜びを分かち合った。
日本らしい文化「お弁当」には一つひとつにストーリーがある
「北海道から沖縄まで、このコンテストに関心をもっていただき感謝申し上げます」という主催者である同学の福井一光学長の挨拶から始まった表彰式。福井学長は、続けてお弁当という文化について語る。「毎日、家内がお弁当を作って持たせてくれます。その中にいつも、庭にある南天の木の葉っぱが入っています。『難を転じる』と語呂合わせで飾ってくれているのですが、さりげない心遣いを感じる日本人らしい文化ですよね。今回、皆さんもそんな思いを込めてお弁当を提案してくださったのではないでしょうか? 今後もそうやってお弁当を作れば、あたたかい人間関係ができ、文化が続いていくと思います」と笑顔を向けた。
続けて審査委員の紹介後、審査委員長の大石美佳教授(家政学部長)が「たくさんのお弁当作品にそれぞれ思いが込められていて審査はとても難しいものでしたが、みなさんの経験を一つひとつ追体験させてもらい心を動かされました。中でも受賞した作品は、『こんなストーリーがあって、だからこのお弁当なんだな』と伝わってくるものでした。これからもお弁当だけでなく、人の心を動かす豊かな人になってください」と挨拶した。
表彰状授与で最初に名前が呼ばれたのは、ムスリムの友人に向けて作った「JAPANのハラール弁当」で最優秀賞を受賞した酒井しいさん(愛知県立岩津高等学校3年)だ。誰もが晴れ舞台に緊張した様子だったが、表彰状を受け取ると顔がほころび、会場からも温かい拍手が送られた。
閉式の挨拶を務めたのは、高校生新聞の西健太郎編集長。「他の高校生の作品もぜひ見てほしい。育った環境が違い、それぞれの場所で作られた作品が見て取れることでしょう。これから進路のことなどで思い悩む時もあるかもしれませんが、ここでしっかり評価されたことを忘れないでください」とエールを送った。
ふだんは語らなくても誰にでも思い入れがあるお弁当
写真撮影では、「表情が硬いのでもう少し笑顔で」というカメラマンの声に、特別審査委員の阿部了氏が「わっはっは」と大笑いをしてみせ、全員の表情が一瞬でやわらかくなった。そのまま打ち解けた様子で懇親会が始まる。阿部了氏は、もう一人の特別審査委員でライターの阿部直美氏と夫婦二人三脚で、人々のお弁当を求めて全国を回るカメラマンだ。了氏がお弁当の写真を撮り、直美氏が写真にまつわるエッセイを書く。
懇親会では、一人ひとり飲み物を手にすると、阿部直美氏が乾杯の挨拶に立った。「多くの高校生は、ふだんは人に作ってもらい、お弁当について語ることはなかったのではないでしょうか?でも、ただの卵焼きでも話を聞くと、『子どもの頃の卵焼きはこうだった』などいろんな話が引き出せます。今回、皆さんもお弁当をについて考える機会になったでしょう」と話して乾杯の音頭をとった。
和やかに懇談が続く中、最優秀賞受賞者が作品について発表する時間が設けられた。一昨年も入選したという酒井しいさんは「今回は、マレーシアのハラール認証スイーツ製造企業で2ヶ月弱のインターンを経験し、英語も話せず不安だった時に助けてくれたムスリムの友人に向けて作りました。ムスリムの人は、豚肉とお酒を口にできないので、ハラール認証を受けた醤油を使うなど気をつけました」とコメント。
また、文部科学大臣賞を受賞した福岡県立東筑高等学校も、家庭科教員の井上いずみ先生が学校を代表してコメントを求められ、「2年前から『家庭基礎』の課題で参加させていただいています。以前、受賞した生徒をホームページで紹介すると生徒たちのモチベーションが上がり、『いざ鎌倉』ではないですが、みんなで『鎌倉に行こう』とがんばっていました。初めてお弁当を作る生徒もいましたが、作る人の苦労がわかり、感謝の気持ちが深まったと言っています」と語った。
家族以外へのお弁当に感じる新しい風
途中、審査委員による講評も行われた。高橋ひとみ教授(家政学部)は「(ふつうは)お弁当で顔はわからないけれど、お弁当を見て人がわかるほど印象に残る作品ばかりでした。私は調理の初学者と熟練者に関する論文を書いていますが、1回でも調理を経験すると次は段取りがよくなっておいしく作れるようになります。ぜひまた、チャレンジしてください」と語りかけた。
同じく審査委員の山口真由准教授(家政学部)は「例年、最優秀賞はご家族へのお弁当が多いのですが、今年は海外のお友達へのお弁当。新しい風を感じました。この甲子園は、野球の甲子園と違って朝練も走り込みもしなくていい、誰でも挑戦できる甲子園ですので、また来年もぜひ挑戦してほしいです」と次なるチャレンジを促す。
その後は、阿部了氏が受賞者にインタビューをして回る。最優秀賞の酒井さんには、マレーシアの友人との関係を質問。「言葉がわからないので、わかりやすい言葉でゆっくり話してくれて、お姉さんのような存在です」と酒井さんは答えた。
次は優秀賞で出席していた3人に質問する。整頓好きな妹に「きっちり整頓弁当」を作った優秀賞の向井真凛さん(青森県立八戸高等学校1年)には、おかずのポテト料理について「これどうなってるの?」。向井さんは「妹がポテト好きなので、マッシュして丸くしました」と回答する。松本藤乃さん(愛知県立安城高等学校3年)は、海上保安官を務める「世界一かっこいい自慢の兄」に応援の意を込めて「好きなものだけ弁当」を作った。「どこがかっこいいの?」という了氏の問いに「正義感が強く、決めたことはちゃんとやるところ」と笑顔で答えた。家族に「いつもありがとう弁当」を作った井田仙太郎さん(群馬県立沼田高等学校1年)は、両親と妹3人、それに自分の分を入れて6つの弁当を作った。「おにぎりに顔を一つだけつけていないのはなぜ?」と聞かれて「時間がなくて」と正直に答える井田さんに、会場は笑いに包まれた。
山口准教授が講評で触れたように、今年は家族以外に当てたお弁当が印象に残る。児童養護施設で生活する原光一さん(岐阜県立坂下高等学校2年)は、ケンカした後でも必ずお弁当を作ってくれる職員への「スタミナ弁当」を作り、女子との出会いを求めた男子校生徒ならではのアイデアで入選した松尾勇希さん(群馬県立高崎高等学校1年)は、妹とその友達に向けた「アニキの下心弁当」を作った。心を打つものから思わず破顔するものまで多種多様なお弁当が揃ったと言えよう。いずれも、誰かを想って作る力作だ。この経験が高校生にとって、今後もまわりの人たちと食を通じてあたたかい人間関係を築く礎となることに期待したい。
第14回お弁当甲子園入賞者
- 【最優秀賞】
- 酒井 しい(愛知県立岩津高等学校3年)
- 【特別審査委員賞】
- 瀬戸 のどか(東京都・東洋英和女学院高等部2年)
- 平木 一佳(静岡県立焼津中央高等学校1年)
- 【優秀賞】
- 向井 真凛(青森県立八戸高等学校1年)
- 松本 藤乃(愛知県立安城高等学校3年)
- 白井 晴菜(広島県立広島皆実高等学校3年)
- 井田 仙太郎(群馬県立沼田高等学校1年)
- 【入選】
- 辻 由登(佐賀県・早稲田佐賀高等学校1年)
- 増田 小春(静岡県立焼津水産高等学校2年)
- 野田 純(広島県・安田女子高等学校2年)
- 原 光一(岐阜県立坂下高等学校2年)
- 後藤 結愛(神奈川県立横浜栄高等学校2年)
- 宮﨑 千咲子(広島県立広島商業高等学校2年)
- 國仲 彩禾(沖縄県立八重山高等学校2年)
- 村上 愛奈(青森県・松風塾高等学校3年)
- 伊藤 心海(神奈川県・公文国際学園高等部2年)
- 松尾 勇希(群馬県立高崎高等学校1年)
- 【佳作】
- 田中 沙和(東京都・目黒日本大学高等学校1年)
- 田口 晴也(佐賀県・早稲田佐賀高等学校1年)
- 梶原 みなも(福岡県立東筑高等学校1年)
- 沼口 恵茉(東京都・早稲田実業学校高等部2年)
- 佐藤 彩奈(千葉県立佐倉高等学校3年)
- 西岡 葵唯(徳島県立城東高等学校1年)
- 中野 美咲(静岡県立清流館高等学校3年)
- 小池 麻唯子(静岡県・静岡女子高等学校2年)
- 島尻 鈴菜(沖縄県立名護高等学校3年)
- 矢田 陽南(徳島市立高等学校2年)
- 朝倉 由衣(愛知県立豊橋南高等学校2年)
- 飯塚 健志朗(埼玉県・本庄東高等学校1年)
- 工藤 暖華(茨城県・水戸女子高等学校3年)
- 庄司 彩華(茨城県・水戸女子高等学校2年)
- 平田 芽依(大阪府立清水谷高等学校2年)
- 【文部科学大臣賞】
- 福岡県立東筑高等学校
- 【学校賞】
- 東京都・早稲田実業学校高等部
- 佐賀県・早稲田佐賀高等学校
- 神奈川県・湘南学院高等学校
- 【鎌倉女子大学賞】
- 東京都・目黒日本大学高等学校
- 埼玉県・本庄東高等学校
- 福岡県立福岡高等学校


