導入2年目の推薦入試の結果を発表する東大幹部(2月8日、東大本郷キャンパス)

東京大学は2月8日、導入2年目となる2017年度推薦入試(100人募集)の合格者を発表した。合格者は71人で、前年より6人減り、導入から2年連続で募集人数に満たなかった。志願者は前年と同じ173人だった。東大は「今年も素晴らしい人を合格させられた」と推薦入試を評価する一方で、「高校との連携が十分でない」と生徒を推薦する高校側の理解が広がっていないことを課題に挙げる。(西健太郎)

7学部が定員に満たず、合格者1人の学部も

東大は推薦入試の狙いを「学部学生の多様性を促進し、学部教育の活性化を図ること」と説明する。「特定の分野や活動に関する卓越した能力、もしくは極めて強い関心や学ぶ意欲を持つ志願者を求める」として、志望理由書や高校による推薦書、面接などの結果を総合して選抜し、センター試験(おおむね8割程度の得点が必要)もふまえて合格者を決めた。

募集や選考は実質的に学部ごとに行っている。今回、法学部が募集人数(10人程度)を上回る13人の合格者を出した一方で、経済、文、教養、工、農、薬の各学部と医学部(医学科と健康総合科学科に分けて募集)は合格者が募集人数を下回った。中でも、5人程度を募集した教養学部には24人が志願したが、合格者は1人にとどまった。教育学部と理学部は募集人数と同数を合格させた。

「女子」「関東以外」の比率は高め

71人の内訳は男子44人(62%)、女子27人(38%)。現役合格者70人、既卒1人。出身高校の地域別では、東京21人(29.6%)、東京以外の関東6県が12人(16.9%)、その他の地域が38人(53.5%)だった。女子の比率が2割に満たない一般入試に比べ、女子の合格者の比率が高い。関東以外の合格者の比率も一般入試より高くなっている。一般入試では、センター試験の成績による第一段階選抜の基準に満たずに合格できない可能性が高い学生も、推薦入試で合格したという。

合格者について相原博昭・推薦入試担当室長は「大変すばらしい人たち、趣旨に会った人たちを合格させることができたとどの学部も喜んでいる。多様性の面でも、女性(比率)が一般入試の倍になっている。2年目だが今のところ非常にうまくいっていると評価している」と話す。

高校への説明「努力の余地残る」

一方で、初年度に続き、合格者数が募集人数を大幅に下回った。原因は、そもそも志願者が173人と、募集人数の2倍未満にとどまっていることが大きい。東大は各高校が推薦できる人数を男女1人ずつ(男子校、女子校は1人だけ)に限っているため、生徒を推薦する高校が広がらないと、志願者も増えない仕組みだ。今回は159校から出願があった。全国に約5000校ある高校の3%程度にあたる。初年度は151校からの出願があり、そのうち54校が今回も生徒を推薦した。105校から新たに推薦があった一方で、前年度推薦をしたが今回見送った高校も97校あったことになる。

募集人数に満たなかった人数は一般入試前期日程の合格者人数を増やして対応するため、合格者の総数に影響は出ないとみられるが、南風原朝和・入試担当理事は、「ペーパーテスト(一般入試)でとれない人を、100人(推薦入試で)とりたいと考えている」と推薦入試合格者を増やしたい考えだ。

東大側は「学校長推薦なので、高校の先生にもご理解いただいて、さらに説明する必要がある。その努力をする余地が残っている」(相原室長)と、高校側の推薦入試への理解が進んでいない状況を認める。南風原理事も「(導入から)まだ2年目。高校側が推薦するにも(書類作成などの)コストがかかる。面接などを受けるにもコストがかかる。学校側も『大丈夫』という生徒を推薦したいと思うが、その水準の見極めができていないのではないか。(高校との)連携が十分にできていない。高校の先生に説明して積極的な推薦をお願いしたい」と話す。

書類の負担、授業内容とのギャップが理由?

東大と高校側のギャップはどこにあるのか。南風原理事の言葉にある「コスト」の問題がまずあげられる。高校教員からは、東大に限らず「国立大学の推薦入試は作成する書類の負担が重い」(進路指導担当)といった声も聞かれる。生徒も書類作成の準備に時間がとられると、一般入試向けの受験勉強にあてる時間が減りかねない。合格が見通せないと高校側としては生徒を推薦しづらい。初年度の合格者には「先生から反対されたが出願した」という生徒もいた。

東大推薦入試をめぐっては「科学オリンピック出場」といった理系学部の推薦要件の「例示」が大きく報道され、ハードルの高さを感じて敬遠する高校も少なくない。また文系学部の要件には「在学中に作成した論文、作品、発表の内容を示す資料」(教育学部)、「在学中に執筆した論文」(法学部)、「総合的な学習の時間や自主的な研究活動、社会貢献活動で学んだこと」(文学部)といった研究活動に関する資料や論文を、提出物の「例示」として挙げている学部が目立つ。自ら設定した課題を研究する「探究的な学習」は、文部科学省が検討中の新カリキュラムの特徴の一つだが、従来型のペーパーテストを意識したカリキュラムを組んでいる進学校には、課題研究の授業を設けている高校はまだ少ない。先進的に探求型のカリキュラムを組んでいる高校に、東大がアプローチできるかも課題になりそうだ。

東大は2年目にあたり、各学部の推薦要件や選抜方法はほとんど変更せず、一部の学部で推薦要件の「例示」を「必須」ととられないように書き方を修正するのにとどめた。2018年度入試も「学部によっては、(推薦要件の)例示を広げたり、例示を掲載しないなど、多少の変更はありうる」とするが、選抜方法の大幅な見直しや、募集人数の変更は当面考えていないという。南風原理事は「まだ2年目。この数年は(推薦入試合格者の)追跡をしながら、志願者の推移を見守りたい」と話す。

初年度の合格者は入学から1年が経とうとしている。試験成績は良好で、既に学会などに参加している学生もいるという。

【2017年度東大推薦入試 学部ごとの合格者数】
※学部名の後のカッコ内が募集人数。合格者数の後のカッコ内は志願者数

法学部(10人程度募集) 13人合格(25人志願)
経済学部(10人程度) 3人合格(14人志願)
文学部(10人程度) 4人合格(13人志願)
教育学部(5人程度) 5人合格(6人志願)
教養学部(5人程度) 1人合格(24人志願)
工学部(30人程度) 23人合格(42人志願)
理学部(10人程度) 10人合格(25人志願)
農学部(10人程度) 7人合格(11人志願)
薬学部(5人程度) 2人合格(3人志願)
医学部医学科(3人程度) 2人合格(8人志願)
医学部健康総合科学科(2人程度) 1人合格(2人志願)
合計(100人程度) 71人合格(173人志願)