若山俊隆准教授

[埼玉医科大学 保健医療学部 医用生体工学科 若山俊隆准教授]

スマホカメラでカシャっと撮影する感覚で人の身体の形を計測できたら───そんな発想から光とメカトロニクス(機械の制御にコンピュータを利用する技術)を駆使した研究開発を進めているのが若山俊隆准教授の研究室だ。

基盤となる三次元形状計測技術は、自動車・飛行機の製造といった産業分野では実用化されて久しいもの。測定対象に光を当てて形状を計測し、メカトロニクスやエレクトロニクスの原理を使って数学的に処理。製品の形状の評価などに必要なデータを求める。

若山准教授が目指しているのは、こうした技術の医療への応用だ。「医療に関しては、いま現在も高度な医療装置が数多くある一方、例えば腹囲を測るときにはいまだにメジャーを使っていたりする。そんな“ハイテクとローテクの間”を埋めるための技術として光三次元計測を利用できれば、医療に大きく貢献できると考えたのです」と若山准教授は話す。

がんの放射線治療などに役立つ
高精度位置決め装置を開発

三次元形状計測技術の応用例のひとつが、がんの放射線治療装置における「高精度位置決め装置」だ。

「がんの放射線治療では患部に15〜30分間放射線を当て、がん細胞を破壊します。その際、患者さんが少しでも動くと放射線が患部以外の箇所に当たり、健康な細胞が壊れてしまう。このため、患者さんの動きに追従し、それを防ぐための三次元誘導装置を研究開発しています」と若山准教授。これは患者の現在の姿かたちを光三次元計測で測定し、事前のスキャンデータと高速でマッチングさせることで、がん細胞のある現在の位置を追従。正確な位置に放射線ビームを打つことができるという原理の装置で、既に基礎実験の段階は終了。5〜15年後の実用化を目指して、医師と共同で研究開発に取り組んでいる。

開発中の高精度位置決め装置

義足の適合性評価で
東京パラリンピックに貢献

また、近年増加する人工股関節置換術における3次元ナビゲーションシステムの開発にも着手。これは手術を担当する医師の力量や経験に左右されず、手術の成功率を向上させるという目的で進められており、ペン型の計測装置を開発中。手術後の患者のQOL(生活の質)を高めることが期待できるという。

そのほかにも若山研究室では、光のもつ偏光といわれる特性を利用し、これまで目に見えなかった細胞などを測る「偏光計測」など、光を医療に利用するさまざまな研究開発を他大学や企業、研究所などと共同で行っている。

「現在、三次元形状計測の技術を利用して義足ソケットの適合性を評価する研究も進めています。パラリンピックに出場するような運動選手にとって、自分に合った義足は唯一無二のもの。東京オリンピックまでに実用化できればと考えています」。

こうした研究は、工学を医療に活かせるのが醍醐味。「高度医療を提供する3つの附属病院がある本学は、研究にあたって医療スタッフとタッグを組みやすいのが強み。工学にも医学にも興味がある、そんな意欲的な高校生にぜひ入ってほしいと思います」(若山准教授)

なお同学科では、学生のほぼ100パーセントが臨床工学技士の資格取得を目指すが、大学院あるいは勤務先の病院などで医療機器の研究開発に携わる可能性も開けている。

 先輩に聞く
医用生体工学科4年
高橋優太さん(群馬県立渋川高等学校出身)
 オプトメカトロニクス(光学に特化した機械工学・電子工学の分野)には医療と産業の垣根がありません。現在は他大学の研究室にも通い、リング状のレーザー光を使った三次元形状計測を工学側で応用する研究にも取り組んでいます。
 自分で研究開発した機器を、ドリルや旋盤などを使って自分の手で製品化できるのが若山研究室の魅力のひとつ。ものづくりのやりがいが感じられます。
 私は、来年3月に臨床工学技士の資格を取得し、そのまま大学院に進学する予定。若山先生の研究室で医療機器の研究開発に取り組みながら、大学の教員を目指したいと考えています。

 

 

 

 

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