大将の星子啓太

九州学院(熊本)剣道部が、熊本地震で一時「解散」の危機に追い込まれながらも復活。なお余震が続く中で、インターハイ4連覇という前例のない世界へ挑む。(文・写真 南隆洋)

耐えられない試練はない

4月14日、16日と続けざまに震度7の大地震に襲われた熊本地方。熊本市の中心部にある同校も校舎の一部が壊れ、教室が使えなくなる一方で、近隣の人々が続々と校庭に避難してきた。

剣道部の主力メンバーが生活する寮は、昨年末に耐震工事を済ませており、幸い大きな被害は免れたものの、被災者への炊き出しの場となり、備蓄は次々と市民に提供された。部員の家庭も家が全壊、半壊した。新学期が始まったばかりの大切な時期。学校は休校となった。

「希望は失望に終わることはない」「耐えられない試練はない」。キリスト教系の同校は聖書の一説を生徒・保護者に伝え、励ました。

体育館1階の道場は、照明に不具合が生じたものの、床は大丈夫だった。しかし、米田敏郎監督(教士七段)は、「稽古」ではなく「解散」を命じた。

「多数の生命が失われた。今、恐怖や不安に襲われ、困っている人がそこにいる。そこを考えて行動しろ。自分のことだけ考えてはいけない。今やれることをしなさい。剣道はいつでもできる」

全員を自宅に帰した。

テント生活で練習再開

登校日翌日の4月28日から、主将の梶谷彪雅(3年)ら主力7人がブルーシートのテントを張り、監督とともに寝泊まりしながら練習を再開した。周囲を気遣い、稽古は朝9時から2時間だけ。照明も不十分な薄暗い道場でも「床があるだけでよかった」

5月2日から4日間は、長崎県島原市で、昨年のインターハイ決勝で戦った島原高など全国の強豪が集う「練成会」に参加。久々に思いっきり竹刀を振った。

そして、授業再開の前日の5月8日からようやく全員稽古が始まった。

ほぼ3週間のブランク。家の再建を手伝わなければならない部員もいる。鉄道途絶で通学が大変になった生徒もいる。

監督は言う。「震災の中で、いろんな経験をした。見た。これを財産に代えて人生の中で生かしてもらいたい。時間と心を無駄にするな」

隙なし二枚看板

インターハイでは、昨年も出場した梶谷と星子啓太(3年)を不動の副将と大将に置き、残りの陣容は「状況を見て起用する」という。

梶谷は周囲に目配りが利き、試合では展開の速い攻撃が魅力。「チャレンジャーのつもりでみんなで協力して『日本一』に」と部員をまとめる。星子は昨年のインターハイで副将として貢献し自信を強め、春の2つの全国大会で1本も取らせない巧みな剣さばきを見せた。「夏冬の走り込みが生きてきた。震災に負けない。目標は、全てに勝つ」と意気込む。

 
【TEAM DATA】
1911年、開校とともに創部。インターハイで3連覇を含め5度優勝。玉竜旗で昨年まで2年連続を含め7度、高校選抜大会で今年まで4連覇を含め8度優勝。魁星旗で同3連覇を含む7度優勝。全日本選手権の覇者・内村良一(警視庁)をはじめ選手や指導者を多数輩出。「当たり前のことを当たり前に」をモットーに1日3時間の稽古。部員47人(1年19人、2年14人、3年14人)。