時に力強く、時に繊細に、筆ペンで描かれた線が躍動する。川本杜彦(もりひこ)君(東京・麻布高校3年)は、2月に校内で個展を開き、原画とパソコンで着色した作品計12点を展示した。

時に力強く、時に繊細に、筆ペンで描かれた線が躍動する。川本杜彦(もりひこ)君(東京・麻布高校3年)は、2月に校内で個展を開き、原画とパソコンで着色した作品計12点を展示した。

「恐怖」から始まった創作

中学3年の時、川本君は試験中に意識を失った。首を痛めていたことが原因だと後に分かったものの、「死にかけたのか?」と恐怖が募った。自宅でふと目に留まった筆ペンでプリントの裏に絵を描くと、その間だけは恐怖から逃れられた。それからは学校から帰ると夢中で絵を描き、スケッチブックに描きためた作品を司書の先生に見せると、図書館前のギャラリーで展示してはどうかと勧められた。個展は1年生の秋に初めて開き、今回が2度目となった。

個展の準備中に、かつて自分の絵を見に来てくれた人が亡くなったという知らせを受けた。「ただ自分が強く傷ついていることを感じ、そのことを描き残せるのは今しかないと思った」。「死さえ愛」と題した絵に、生死の境にするつもりで1本の横線を描いた。でも、絵はその線を超えて自由に広がっていった。「死を描くつもりでいたけれど、生の流れは断ち切れなかった。僕は生きる力を描こうとしていると気づいた」

校内外で依頼相次ぐ

川本君の絵は校内で広く認められ、管弦楽部の演奏会ポスターやPTA会報用の絵を依頼されたこともある。プロの芸術家に交じり出展したアートプロジェクトでは「原画を購入したい」と言う人との出会いもあった。

「絵を描いている時は、自分の奥底からエネルギーが湧いてくる。『意識していなかったけど実は落ち込んでいた』というように、描くことで自分の気持ちが浮かび上がることもある。これからも、その時々の自分に何が描けるのかを知りたい」。だから、絵はずっと描き続けるつもりだ。(安永美穂)