左から神野さん、加藤さん、藤本さん、高校生記者の前田さん、牛崎さん、二木さん

深刻化する世界規模の環境問題を解決するために、JICAでは、開発途上国においてさまざまな取り組みを行っている。環境教育隊員を開発途上国に派遣するJICAボランティア事業もその取り組みのひとつ。青年海外協力隊の活動経験を持つ加藤超大さん、藤本亜子さん、神野志帆さんに、現地で感じた環境教育やESD(Education for Sustainable Development=持続可能な開発のための教育)の大切さについて語ってもらった。

Q 現地での活動を教えてください。

加藤:ヨルダンに派遣されていました。主な活動は3つ。1つ目は環境教育の施策を現地の人と一緒に作ること、2つ目は学校に巡回して環境教育を行うこと、3つ目は自然保護区で環境ワークショップを行うことでした。

藤本:コスタリカで、子どもたちにゴミ分別の大切さを教えたり、環境保護の大切さを学んでもらう活動を行っていました。

神野:ドミニカ共和国のサントドミンゴ・エステという市の役所に配属されました。高校を巡回して環境教育を行いつつ、現地の教員などの育成も行いました。

授業後に集まってきた生徒たち

Q 現地の高校生は、環境教育にどのように取り組んでいましたか?

加藤:ヨルダンは多くの高校に環境クラブがあるのですが、ほとんど機能していません。というのも、ヨルダンは超学歴社会なので、環境教育よりも受験科目が重要視されています。また、先生たちもどう教えたらいいのかわからないといった状態です。

藤本:コスタリカは、高校の授業に環境教育はまったく取り入れられていませんでした。ただ、もともと自然豊かな国ということもあり、暮らす人たちも自然を愛し、大切にする意識は備わっています。

神野:ドミニカの高校では、日本でいう「総合学習」が半年間かけて行われ、そこで環境教育を選択することができます。多くの高校生は環境問題や3R(Reduce、Reuse、Recycle)などの知識を持っているのですが、日常生活で実践に移すことはほとんどありません。ドミニカの学校は小・中・高一貫なので、高校生が小・中学生に授業で学んだことを教えるような流れができるといいなと感じています。

Q ESDについて教えてください。

藤本:ESDを説明するとき、私はよく「流しそうめん」に例えます。流れてきたそうめんを最初の一人が全部食べてしまったら、あとの人たちは何も食べられませんよね。地球上の資源も同じで、私たちがすべて使い果たしてしまったら、50〜100年後には何も残らなくなってしまいます。ESDの視点を取り入れた環境教育では、先のことを考え、未来に自然や資源を残すために行動できる人を育てます。

Q 高校生に関連するESDの事例はありますか?

藤本:10年ほど前から、学校の授業でもESDを取り入れていこうと、環境省や文部科学省が呼びかけています。今ではその数も増え、「ユネスコスクール」として認定し、ユネスコという国際機関が拠点となり支援しています。
 例えば島根県立島根中央高校では、世界遺産である石見銀山の環境保全のために、地域の大人たちをも巻き込んだ大きな活動に取り組んでいます。また、徳島県立徳島科学技術高校は、絶滅したと思われていた淡水魚「カワバタモロコ」の発見をきっかけに、カワバタモロコの保全・繁殖の研究を行っています。環境問題というと、「砂漠化」「温暖化」といったグローバルな問題を思い浮かべがちですが、もっと身近なところにも課題は潜んでいます。

Q エコプロダクツとは何ですか?

神野:日本最大級の環境展示会で、会場にはさまざまな企業・団体のブースが出展します。JICAとしては、今年初めてのブースを出展します。ブースでは、環境教育の分野で活動した青年海外協力隊OBが、現地での授業を再現したり、現地の状況をお伝えするといったワークショップを実施する予定です。高校生の皆さんも楽しめる内容になっていますので、ぜひ参加してみてください。

<環境教育隊員の活動内容とは?>

 JICAでは、開発途上国の人々が自然と調和した健康な生活を送るため、自然環境に対する人々の意識の変化や行動の変容を促すよう、環境教育隊員を開発途上国に派遣しています。環境教育の活動には大きくわけで、ブラウン系(廃棄物や衛生に関する活動)とグリーン系(国立公園、自然保全関連の活動)の2つのタイプがあります。


—– 取材を終えて —–

★前田 黎さん(東京・私立高校2年)
 もともと青年海外協力隊に興味があったこともあり今回の取材に参加しました。今日、お話を伺うまで、日本人スタッフの役割は、途上国のオフィスで現地スタッフに指示を出すことだと誤解していました。しかし、実際はそのオフィスワークに加え、自らその土地や子どもたちにあった教材を作り、学校で教えるという活動をしており、今までの青年海外協力隊に対するイメージが一転しました。今回の取材を通して、解決策を考えるだけでなく、それを実行・実現することがいかに重要かということを学びました。考えたことを実行する<知行合一>からこそわかる本当の学びを大切にしていきたいと思いました。

★牛崎悠里亜さん(東京・学芸大附国際5年)
 皆さんのお話を伺い、教育のレベルは国ごとにさまざまであり、教育のプロセスやノウハウを共有することの大切さを学びました。授業中に抜け出してしまう子どもや、集中力が続かない子ども、算数ができない子どもなど、子どもたちのさまざまな問題に対し、子どもたちが興味をもってくれるような地域の問題について一緒に考えたり、その地域の先生に教育方針を指導したりするといった助け合いの姿が見られ、寄付や生活の手助けをするだけがボランティアではないんだということを強く感じました。
 今回、お話を伺ったESDの教育方針は、自ら問題を見つけ、解決方法を考え、実行に移すという段階があります。問題を発見する力、気づく力の重要性を改めて感じました。環境教育以外にも、それぞれの国の特徴や人の温かさ、文化の良さが伝わり、とても充実した取材になりました。

★二木恵さん(東京・私立高校2年)
 お話を伺って最も印象に残ったのは、それぞれが自分の経験に対し深い思い入れを持っていらっしゃるということでした。
 青年海外協力隊という名前を耳にしたことはもちろんあったし、長期ボランティアで世界中に行くというイメージはあったのですが、今回皆さんにお話を伺い、協力隊の具体的な仕事内容がよくわかりました。
 今回は「環境教育」がテーマでしたが、環境教育とは何か、また、どのようにして環境教育が行われるかということを初めて知りました。驚きだったのは、仕事の大部分が個人の判断に委ねられているということです。自分から積極的に行動をさせるようなやりがいがあったのだろうなと思います。また、「言いたいことが多すぎる!」と自らおっしゃる程、現地についての話になると、それぞれの活動に対するパッションが感じられました。
 将来どのような職業に就くかはわかりませんが、人に話すと止まらなくなるような、誇りを持てる仕事をしたいという憧れを抱きました。