佐賀・北陵高校には全国でも珍しいバルーン部がある。その部員たちが、10 月30 日から11 月4日まで開かれた佐賀インターナショナルバルーンフェスタに高校生で唯一出場した。世界のバルーンに交じって、日本の高校生の心意気を大空に膨らませた。( 文・写真 南隆洋)

未明から準備

会場は、学校から約5㌔離れた嘉瀬川河川敷。朝の光が輝き始めるとともに、薄いグレー地に紺と黒をあしらったつなぎの作業着姿の部員たちが飛び回る。気球は直径27㍍、積み込むガスボンベの重さは1 本35㌔だ。

古賀圭耕君(1 年)が背をいっぱいに伸ばして気球の開口部を支えると、パイロットの冬野陽一先生がバーナーを燃やし、熱風を吹き込んだ。膨らんで浮力が増してきた気球を、山口修平君(2年)らがロープを引き懸命に支えた。

この日の搭乗者は、副部長の江頭洋人君(2年)と山下大介君(1年)。同乗の冬野先生の指揮に従い、地上と無線連絡を取り、気球の位置などを確認していく。上空から、地上に設定したターゲットめがけてマーカーを投下し、目標への接近度を競う。

奮闘「追跡班」

係留ロープが外されると同時に磯野博斗君(1 年)、井山練君(1 年)ら「追跡班」が、顧問の田崎博之先生らの運転する車に駆け込んだ。

上空を見ながら気球を追いかけ、着陸地の地主に迷惑をかけないよう速やかに気球を撤収するのが役割だ。

 

「南風に乗って北へ向っている」「(マーカー投下)ポイントを外れた」 無線交信を聞きながら、田崎先生が右へ左へハンドルを軽快に切った。

この日は午前8時22 分離陸、同9時6分着陸の44 分間の空の旅。残念ながら予定の場所にマーカーを落とすことはできなかった。初搭乗の山下君は「気持ちが高ぶった。地上と無線で分かりやすく話す訓練をしなければ」と反省。5 回以上搭乗している江頭君は「昇りより降りる時に緊張する。眺めは最高」。

判断力と気遣い

部長の鷲﨑大希君(2 年)は「楽しく仲良く勝つチームへ」と部員を引っ張る。日頃は放課後1 時間、地図や風の読み方などを学び、気球の組み立て、立ち上げ、バーナー操作などの訓練を繰り返している。幼稚園や小学校のグラウンドで、子どもたちを乗せて楽しませることもある。

熱気球競技は、大自然の中での知力と体力、そしてチームワークの総力戦。冬野先生は「風を読みながらの瞬時の判断力が求められる。仲間への心配り、気遣いが培われ、それが将来、仕事をする上できっと役立つ」と部員たちを厳しく指導しながら優しいまなざしを注ぐ。

部活データ 1988 年、全国初の熱気球部として創部。部員16 人(3年生2人、2年生6人、1年生8人、女子3人)。気球は4 代目で「九ちゃん4 号」。同校初代理事長兼校長で部の生みの親・故江口九郎次先生を慕い、生徒が名付け継承している。北海道上士幌高校熱気球部とも交流がある。

メモ

佐賀インターナショナルバルーンフェスタ

1980 年から開催され、今年は13 の国・地域から101 機が参加。アジア最大規模の大会で、6部門の競技が実施されるほか、多彩なイベントも展開される。

空気を暖め飛ぶ

熱気球は、気球内の空気をガスバーナーで暖めて軽くすることで浮力を得る。かじや推進プロペラなどはない。バーナーの火力を調整して上下し、高度によって変化する風を選んで進行方向を決める。