金沢大学附属高校(石川)は、2年生有志が文化祭で歌舞伎公演をすることが伝統となっている。今年は10月19日、20日の文化祭「開校記念祭」で有志85人が「恋飛脚大和往来 封印切(こいびきゃくやまとおうらい ふういんきり)」を公演し、好評を博した。総監督を務めた田岸和真君に聞いた。(野村麻里子、写真は学校提供)

監督も大道具も全て生徒、動画で学ぶ

――どうやって準備したのですか?

今年7月から準備を始めました。2年生の有志が、キャストや大道具、衣裳、照明音響などに分かれて、週5日、放課後に活動をします。本番前は土日も頑張りました。

夏休みに演目や配役を決定し、大道具・小道具の準備を始めます。2学期からはせりふや動きの練習、大道具の組み立て、衣裳やメイクの練習をします。

今年の文化祭での公演の様子。おゑんが忠兵衛と梅川の仲を取り持つ場面

プロや教員による指導はなく、すべて生徒だけで作り上げます。毎年、監督や助監督を務める生徒が、歌舞伎のDVDやYouTubeなどの動画を見て、せりふや立ち居振る舞いを頭に叩き込み、キャストに指導します。

日本文化、知ったつもりだった

――歌舞伎をやってみて学んだことはありますか?

歌舞伎を通して、具体的にはせりふの読み方、動き方、大道具の配置や小道具の使い方、衣裳の着付けなどの日本の伝統文化にふれました。

日本の文化について、日常生活や学校の授業などで知っているつもりになっていたものの、実際には分かっていないこと、知らないことがたくさんあると気づかされました。

例えば、ステージにセットを組むとき、畳はどう配置するのか、台本に出てくる言葉の意味が分からなかったり、正しい発音、イントネーションに直したりすることは、練習での日常茶飯事でした。歌舞伎をしたからこそ得られた知識や経験がたくさんありました。

文化祭での公演、兼務で苦労することも

――公演をする上で、大変だったことは?

歌舞伎公演は開校記念祭の1つの企画です。私を含め、多くの人が歌舞伎と部活動ごとの模擬店や、2年生が主体となって行う記念祭全体の運営を兼任しています。どちらの活動を優先するかで苦労しました。

人があまり集まらず作業が進まなかったり、自分自身「なぜ人が来ないのに、自分だけ(準備に)来ているんだろう?」と思ったりして、嫌になったこともありました。

それでも、それぞれうまく優先順位をつけて練習してくれたキャストや、忙しい中でそれぞれの仕事をやり切ってくれた人たちがいたおかげで、良いものが作れたと思っています。

梅川の身請けの手焼きをする場面(学校提供)

ステージに立ち「努力が報われた」

――一番印象に残っているのは?

初めて体育館のステージで練習したときです。キャストが歌舞伎の衣裳のお店から借りた衣裳、かつらを身につけ、メイクをしました。大道具や小道具がセットされたステージに上がって、照明や音響と合わせて演じる様子を見て、それまで進めてきた準備の成果が身に見える形になってうれしかったことを覚えています。

実は、キャストやスタッフそれぞれが思い通りに行かないことやトラブルを抱えていて、雰囲気がギスギスしていたんです。そんな中で、「これまでの努力が報われた、本番までもっと良い舞台を目指していこう」と気持ちを切りかえられたのはその時だったと思います。

洗練された歌舞伎の世界に感銘

――歌舞伎の魅力は?

歌舞伎を詳しく知っている方からすれば的外れな答えかもしれませんが、歌舞伎に限らず伝統文化の魅力は、文化が生まれてから長い時間を経て洗練されていること、「型」に無駄がないことだと思います。

映像などで役者さんのお芝居を見ていると、せりふや動き1つ1つが洗練されていて、私たちはそれをどうやれば再現できるのか、キャストの指導で難しく感じることもありました。しかし、同時にそれが良さなのだなとも思いました。

ストーリーに着目してみても、江戸時代を舞台にしている物語の中に、今も変わらない人間の美しい部分、醜い部分がうまくまとめられており、共感できるせりふ・場面もたくさんありました。

これも歌舞伎に限った話ではなく、他の芸能や古典文学でも同じことが言えると思います。それは「なぜ私たち高校生が学校で古典を勉強するのか」にも通じるのではないでしょうか。

このように伝統を捉えることができるのは、やはり金沢という伝統文化・芸能と触れ合って暮らせる街にいるからこそ、なのかもしれません。

衣裳やメイクも高校生たちが行う

少しの工夫で世界が広がる

――伝統文化を学んで思ったことは?

私たち高校生はスマートフォンの普及によって、いつでもインターネットにアクセスして、自分が欲する情報をいつでも得ることができる恵まれた世代だと思います。自分が知りたいことだけを知ったりすることもできる中で、少しでも手を伸ばしてみれば歌舞伎のような伝統芸能についても知ることができます。見ていて分からない言葉や時代背景についてもたくさんの説明を見つけられます。

せっかくのチャンスだと思うので、今まで自分が知らなかったことや分からなかったことについて少し興味を持ってググってみるのもありなんじゃないかなと思います。自分自身、これからもそういう風にいろいろなものを吸収して良ければよいなと思います。

当日のパンフレット