伊藤瑛加さん(東京・中央大学附属高校3年)は、誰もが安心して太陽の光を浴びることができる社会の実現を目指し、株式会社「Sunshine Delight」を設立した。現在は、保育園などに日焼け止めを導入するビジネスプランの実現にまい進中。社長業に励む姿を取材した。(野口涼)

読書やスポーツ、教科では英語が好きという、一見すると普通の高校生の伊藤さん。

だが、ビジネスを通じて子どもの紫外線(UV)対策を定着させたいと考える起業家で、社長でもある。

社長業にまい進する伊藤さん

母のシミ・シワの多さが気になって…

UV対策に関心を持つようになったのは、農業を営む母にシミやシワが多いことが気になっていたからだ。

紫外線について調べるうちに、皮膚がんなどの皮膚トラブルを防ぐにはUV対策が不可欠であること、日焼け止めはこまめに塗り直さなければ効果がないことなどがわかった。

「美容に気を使う女性でも、日焼け止めをこまめに塗り直すことはあまりしません。日焼け止めの正しい使い方を子どものときから習慣化することが大事なのではないかと考えました」

保育園時代からUV対策が必要

現状、日本の保育施設に日焼け止めが導入されていない理由は、子ども一人ひとりに塗ることに関して保育者の負担が大きいからと聞いた。

そこで目をつけたのが、これまで販売されていなかったくらい大容量タイプの日焼け止めの開発だ。

「これを幼稚園や学校、公共施設などに常置すれば、手洗い用の消毒液などと同じ感覚で、子どもたちが自分で塗ることができるようになると考えたのです」

肌が敏感な子どもでも使用できる低刺激性の製品にするのはもちろん、絵本などの教材とセット販売することで、子どもたちにUV対策の重要性を伝えるアイデアも浮かんだ。

子育て中の母親たちの声を聞く

学校の授業で起業を学び決意

2年生のときに選択授業で、アントレプレナーシップ(起業家精神)を学んだことが起業のきっかけだ。授業でグループワークやプレゼンテーションのスキルを磨き、「起業してみたいという気持ちが高まった」という。

この選択授業を受けた生徒全員が応募した「高校生ビジネスプラン・グランプリ」(日本政策金融公庫主催)で、東京都の800グループ中ベスト15に選ばれ、さらなる自信をつけた。

同じ時期に、大手企業などがベンチャー企業に対して出資やサポートを行い、一緒に事業の成功を目指すプログラム「アクセラレータープログラム」(JA主催)の存在を知った。

「UV対策をビジネスにするアイデアは以前から持っていたので、いい機会だと思い挑戦を決めました」

ファーマーズマーケットで日焼け止めの意識調査をする伊藤さん

保護者にアンケート、需要に確信

2カ月かけてまとめ上げたプランは、今年5月に開催されたJAによるビジネスプランコンテストで、応募企業192社のなかから特別賞に選ばれた。JAが運用する幼稚園・保育園に訪問させてもらえることになった。

小さな子どもの保護者などを対象にアンケートを実施した。「幼稚園・保育園に日焼け止めがあったら使わせたいか」との問いに72%が「塗ってほしい」と回答したことに自信を得た。

突然の音信不通……

アイデアの実現にあたって大きなハードルとなったのは、製品の生産だ。まずはいくつかのOEM(生産委託)会社にプランを持ち込んだ。

何度か打ち合わせを行い、よい感触を得たと思っていたにも関わらず、その会社と突然連絡がつかなくなってしまった苦い経験もした。

「社会の厳しさを感じました。ですが、それ以上にたくさんの方に応援していただけたことで、前に進むことができました」

化粧品会社からアドバイス

7月には株式会社Sunshine Delightを設立した。JAの承諾を得て、同じビジネスプランを化粧品会社が主催するビジネスプランコンテストにエントリー。

日焼け止めという製品である以上、ユーザーの信頼を得るには、化粧品会社の力を借りることが不可欠と考えたからだ。100社近い応募の中、選考に残った学生は伊藤さんひとりだった。

その後、化粧品会社の担当者と週に1〜2回打ち合わせを行い、アドバイスを受けながら事業を進めている。「最初は『高校生?』と驚かれましたが、皆さんビジネスの相手として対等に接してくださいます」

これまでに500ミリリットルサイズのボトル式の日焼け止めを、保育施設に試験的に導入してもらった。さらに数園と商談が進んでいる。

来年の本格展開に向け、「打ち合わせでは、担当の方が、なんとかビジネスとして成り立たせようと課題などを指摘してくださいます。今はそれに全力で乗っかり、応えていけたらと考えています」

保育園への導入に向けて交渉を続けている

人と人とをつなげたい

「高校生起業家の多くがプログラミングなどの特別なスキルを持っていますが、私には何もありません」と伊藤さん。「そのかわり人と人とをつなげる力で事業を発展させ、社会に貢献したい」と目を輝かせる。