猛威を振るった9月、10月の大型台風。その影響で首都圏では鉄道や送電が一時ストップしてしまいました。「動いているのが当たり前」と思っているこうしたシステムも万全ではないのです。そこで、交通網をはじめとする大規模なシステムの「信頼性」を評価するための手法を研究している、千葉工業大学社会システム科学部経営情報科学科の秋葉知昭教授にお話を伺いました。

システムの「壊れにくさ」を数値化

秋葉知昭教授

秋葉先生が専門的に研究しているのは「信頼性工学」。交通網や電力網、コンピュータネットワークといったシステムの「壊れにくさ=信頼性」を評価したり、「いつ頃壊れるか」を予測したりするための技術だ。

評価は、数学的手法を使って行う。「例えば、2つの部品が同時に動くと明かりがつくシステムがあるとしましょう。各部品が正常に動く確率をそれぞれ0.9と仮定すると、システム全体の信頼度は0.9×0.9という計算式で求められます。答えは0.81ですが、1 つより2 つ、2 つより3つと、システムの構成要素が増えるほどシステム全体の信頼度は下がっていきます」

計算式にはルールがあり、システムの構造が違えば計算式も違ってくる。鉄道システムのように、車両、レール、電線、列車の運行管理システムなど、多様な装置が同時に故障なく動かなければならない大規模で複雑なものになると、とても手計算では算出できない。「計算式を立てても、それを解いて答えを出すにはスーパーコンピュータでさえ何億年もかかります。より高速に、効率よく解くためのアルゴリズム(計算方法)を見つけ出し、コンピュータが計算しやすい式にすると、1 億年かかる計算を1 秒でできたりするんです」。こうして算出した信頼度に基づいて、システムは設計されるのだ。

システムの信頼性を上げるには、1つの装置が壊れても予備が動く構造にしておけばよい。しかし、その分コストがかかってしまう。コストが上がるほど信頼性が上がることは実証されているが、システムを作る企業側も、収益を考えれば際限なくお金をかけられるわけではない。

高校生新聞を「人・モノ・カネ・情報」に分類する志村さん

「そこで、コストを極力抑えつつ、私たちが日常生活を不安なく送れるだけの信頼度を確保できる『最適なシステム』を設計することが重要なのです。このように、最小のコストで最大の効果や最適な結果を得るにはどうすればよいか、そのために不可欠な『人・モノ・カネ・情報』をどう組み合わせ、どう配分すればよいかを考えるのが、経営情報科学という学問です」

研究はナビソフトにも応用可能

アルゴリズムに関する研究は、電車の乗り換え案内などのナビゲーションソフトにも応用可能だ。現在のように「移動時間が短い」「料金が安い」といった1 つの条件ごとにではなく、「移動時間が短く、かつ料金も安い」といった複数の条件を満たす最適な経路を瞬時に探索できるという。

また、ナビソフトを応用し、2020 年の東京オリンピックを効率よく楽しむためのアプリを開発した卒業生もいるそうだ。「年代、性別、観戦日を入力すると、どの順番で競技会場を回れば最も多くの競技を観戦でき、かつ満足度が高いかを計算して最適なルートを教えてくれるんです。理論研究の成果を、世の中で使ってもらえる形で提供していく。それも今後の目標です」

【取材を終えて】 志村 明果さん(東京都立国立高等学校2 年)

 

今の社会には「人・モノ・カネ・情報」などたくさんの要素が複雑に関わっていることがわかりました。そして、どんな複雑な問題もそれらに分けて考えることが大切であり、私も身近な場面を要素に分けて考えてみたいと思いました。

↓↓↓取材動画はコチラから↓↓↓