“駅前突撃インタビュー”の理由とは?

ある日の津田沼駅前。慌ただしく行き交う人々にまじって、改札正面の少しくぼんだスペースで、あるいはロータリーのベンチでとどまっている(滞留している)人たちが目に付く。千葉工業大学 創造工学部 デザイン科学科のある授業を履修している学生グループがそれを観察。1分以上とどまっていた300人以上に「何を待っているのか」「どうしてその場所にいるのか」を突撃インタビューした。

「答えは千差万別でしたが “待ちやすい場所”があること。待つ時間が長い人と短い人とではその場所が違うこと。それらは時間帯によっても変わってくることなどが浮き彫りになりました」と担当した八馬智准教授は話す。

「人の行動を観察し、それをデータ化することによって、人が待ちやすい場所の条件--木陰や雨露をしのげるシェルター、清潔なベンチなどがあったり、少し奥まったスペースであったりすることが見えてきたのです」

こうしたフィールドワークや実験により集めたデータを論拠にすれば、駅前広場の空間設計やベンチのプロダクトデザインを“より満足されるデザイン”に近づけることができることがわかるだろう。

実験やデータがデザインの論拠に

そもそもデザインとはなんだろう。アートと混同されがちだが、アートが自分の中にあるものの表出であるのに対して、デザインの場合はユーザーの満足度を上げることが使命だ。

「なかでも工学部のデザインは、芸術系の大学で学ぶデザインとアプローチの仕方が違います。最初に挙げた例でもわかるように、工学部のデザインは、論理を積み重ねた結果となるもの。論拠としての実験やデータが非常に重要になります」

ちなみに、一般的にはモノに色や形を与えるのがデザインだと思われているが、実際には形のないものもデザインできる。

「大切なのは、他人の満足のためにモノなり仕組みなりを作るときの意図。人の行動や心理、地形、文化といった周辺の情報を集め、総合して最適解を得ることがデザインという行為なのです」

 

地域に新しい価値を見いだしツーリズムをデザイン

デザイン科学科では、グラフィックデザインや工業デザインといったモノづくりを一通り学んだ上で、そこから見えてくるものを発展的に研究できる。

中でも“もっとも文系寄り”といわれる八馬先生の研究室では、ここ数年、産業観光をひとつの軸に活動中だ。

「高低差の極端に大きい富山平野には、災害に対応するためにさまざまな土木施設が作られています。そのひとつが砂防施設(洪水時に上流から流れてくる土砂をくい止める施設)。この砂防施設をカッコいいものとして観光対象にするツーリズムを生み出せば、地域のプロモーションに役立ちます。2014年度にはこうしたツアーを立案した学生たちが立山町のアイデアコンペで2位を受賞しました」と八馬先生。「インフラに新しい価値観を見いだし、再編集することが地域理解に結びつく。この場合、ツーリズム自体がデザインといっていいものなのです」

デザインのプロセスとは、モノ・ことの価値を見いだして作り、さらに説明を積み重ねることによって人に認めてもらうところまで。このためプレゼンテーション能力の養成には大きな力を注いでいる。

「結果的に人材マーケットでとても有利になります。さらにいえばデザインを学ぶことによって、さまざまなシステムを作りあげる力も身につく。学科で実際にモノづくりのトレーニングを積んだことは、このときのリアリティに圧倒的な強度を生み出します。卒業生がデザインの現場のみならず、社会のさまざまな場所で力を発揮しているのはこうしたことも理由なのです」

学科での学びに向いているのは「視野を広げたいと考えている人」という八馬先生。「デザインのベースはさまざまな知識と経験。経験を積み重ねることをいとわない学生に入学して欲しい」と話してくれた。

 お話を聞いた先生! 

八馬 智 准教授 創造工学部 デザイン科学科

         
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