長沼高校(福島)は、やまあいの小さな城下町にある。全校生徒104人の小規模な学校だ。特徴は、全校生徒でねぶたを作り地元の祭りに参加すること。3年後には近隣の高校と統合されることが決まり、地区から高校がなくなるという。「地域貢献のために今できることは何か……」。その思いを持ちながら、今年もねぶた作りに全力を注いだ日々を、同校2年の有我優希君に語ってもらった。

地元に根付いたねぶた、全校生徒で作る

僕は、昔から伝統的にねぶた祭りを行う福島県須賀川市の長沼地区で育ち、小学生の頃からねぶた作りに関わってきました。長沼地区の人々にとって、ねぶたは身近なものなのです。

高校では、生徒で組織されるねぶた実行委員会と美術部の約30人が中心となり、毎年9月に開催される長沼まつりに、ねぶたを作って参加しています。僕は、1年生の時はねぶた実行委員として、今年は美術部員として、制作に携わりました。

ねぶたのテーマは、全校生徒にアンケートをとって決めます。今年のテーマは「疾風迅雷」、サブテーマは「燃えろ長沼! 弾けろねぶた!」。モチーフは尾形光琳の「雷神」になりました。

4カ月かけて制作

高いところに登って慎重に針金を結ぶ(学校提供)

制作は5月から始め、完成まで4カ月かかりました。作業シフトが組まれ、美術部員は毎日参加し、授業でもねぶたを作りました。ねぶたは、木材で骨組みを作った後、針金で雷神の形を作ります。針金を縦横に張り巡らせ、交差する部分をたこ糸で結び、接着剤で固めます。さらに、針金の上に紙を貼り、色を塗ることで完成します。

難しいのは高い場所での作業です。身長より高い所の針金を交差させ、たて糸で固定し、紙も貼らなくてはなりません。踏み台や脚立で高いところにのぼり、足元に気をつけながら、慎重に作業をしました。

アイス食べて暑さをしのいで

紙を貼ってねぶたを形づくる(学校提供)

苦労したのは、夏の暑さ対策です。8月に、雷神の首回りや脇などの関節部分の紙貼りを行ったのですが、蒸し蒸しとした夏の暑さの中での作業となりました。一番の暑さ対策は、仲間と楽しく話したり協力したりしながら作業を行うことでした。どの作業も、慣れるとコツがつかめてきて、どんどん楽しくなり、あまりつらいとは思いませんでした。差し入れのアイスを食べて、暑さもしのぐことができました。

頑張れたのは、少しでも良いねぶたを作って長沼まつりの主役になるという思いがあったからです。地域のみなさんが、「長沼高校はすごい!」と思ってくださるようなねぶたを作りたいと思い、作業をしました。

祭り当日にねぶたが破けて…

完成したねぶたと共に(学校提供)

祭り当日の完成式を迎えました。美術部部長の鈴木望叶さん(2年)は、「雷神」の目玉に墨を入れました。「私たちは美術部顧問の和田先生のご指導の下、制作に臨みました。来年は、1年生にバトンを渡すことになります。1年生には、ねぶたに対する思いのバトンを受け継いでほしいと思います」。鈴木さんの言葉を聞いて、僕の思いも、1年生が受け継いでくれたらうれしいと思いました。

いよいよ、ねぶたを台車に載せます。ですが……穴が開いてしまうというアクシデントが起こりました。それでもめげず、みんなで協力して直しました。

出陣式では、生徒会長の「エイエイオー」のかけ声と、ほら貝の音が鳴り響きました。僕は、ねぶたを載せた台車を、急な坂道を含む2キロ以上の道のりを歩いて運ぶ担当にもなり、傷つけないよう慎重に運びました。

熱気の中で台車を優雅に揺らし

祭りの開会式で、3年生が祭りにかけた意気込みを話しました。長沼高校は3年後に統合されることに、地域の人々からは惜しむ声も上がりました。

色鮮やかな花火が長沼の夜を照らした後、いよいよ運行開始です。踊り担当の「ハネト」は、ゆかたを短く着こなし、たすきをかけ、衣装に鈴をつけます。台車の前に、50人近いハネトが集い、「ラッセーラー、ラッセーラー」というかけ声にあわせ踊ります。

ハネトの鈴は「幸運の鈴」。落ちた鈴を拾うと幸せになれると言われ、鈴をほしがる人もたくさんいます。去年、僕がハネトをした時、沿道で「鈴をください」と頼まれ、とても感慨深いものがありました。

ねぶた祭り本番。ハネトが躍る(学校提供)

台車係は、ハネトの踊りに合わせ、ねぶたを動かします。前後にゆらす「波」と、水平に時計回り・反時計回りに一度ずつ回す「回転」などの技を披露します。タイミングを合わせ、力強く動かさなければいけません。

沿道にはぎっしりと人が集まっていて、「長沼ねぶたは本当に愛されているんだな」と感じました。ゴール地点では、全員で手をつなぎ、ねぶたを囲むようにして大きな輪を作ります。ねぶたを掛け声に合わせて回し、周囲との一体感が増しました。昨年は台車が破損しましたが、今年は無事でした。

すごいねぶたを作りたい

地域の人の記憶に残るねぶたを作った(学校提供)

来年で長沼高校のねぶたは30代目になります。歴史の貴重な節目に参加できることを楽しみにしています。長沼高校のねぶたの記憶を地域の人々に持ってもらえるよう、来年も、今年よりもすごいねぶたを作れるよう頑張りたいです。今後は、ねぶたを作っている本場青森県をはじめ他の高校生とも交流を持ち、ねぶたネットワーク作りにつなげたいと思っています。