今年の夏、佐賀県で行われた文化部の全国大会「全国高校総合文化祭」の演劇部門で、一際注目を集めたのが、最優秀賞(文部科学大臣賞)を得た逗子開成高校(神奈川)演劇部だ。9月8日(日)にはNHK Eテレ「青春舞台2019」で放送される。全国大会初出場で日本一となった同部に、どうやって練習してきたのかを聞いた。(文・写真 中田宗孝)

ボヤき気味のゾンビに釘付け

オリジナル脚本の作品「ケチャップ・オブ・ザ・デッド」(同校美術教諭の飛塚周・同校演劇部作)は、ホラー映画を製作中の3人の青年が、本物のゾンビと遭遇して繰り広げるドタバタ劇。劇中、上野凜太郎君(3年)が熱演したゾンビの挙動に観客は釘付けとなった。終始ボヤき気味なゾンビの独白で笑いを誘う、どこか愛くるしい振るまいで虜にした。

今作主演の青年たちの一人を演じた角田哲史君(3年)は、「(上野君は)普段から手足の柔らかさを感じさせる独特な動きに個性があり、ゾンビに配役しました」と明かす。

映画製作へと強引に巻き込む人間たちに呆れながらも付き合う、ユーモラスなゾンビが愛らしい(8月23日、東京公演リハーサル)

公演のたびに演技を変更

昨年5月に、この演目に取り組むことが決まった。稽古中は、演出の坂巻虎太郎君(部長、2年)によるち密な演技指導に、演者の部員たちが食らいついた。「現状で満足せず、公演を重ねるたび、動き、せりふの言い回しなど細部にわたり、失敗をおそれず変えていきました。演出面では、良い演技を引き出すために演者をかなり追い込んだはず(苦笑)」(坂巻君)

角田君は「観客を意識した演技」を心掛けたという。「滑舌・発声練習の時も観客に届ける気持ちで。稽古でも本番でも憶えたせりふをただ言うのではなく、観客を含めた舞台の状況に集中して言葉を発すると、真に迫る演技ができます」

マンネリ感漂う危機も

全国高総文祭直前には作品の出来が目に見えて下がってしまう危機もあった。原因は「部全体に漂っていたマンネリ感」(坂巻君)だという。「コミカルなシーンを何度も演じていると、楽しくなくなることが。稽古中まで楽しさを持続させるのが難しかった」(角田君)。同じ時期、3年生部員は受験勉強のため約2カ月間休部、下級生部員は別作品に取り組んだ。「この期間が良いリフレッシュになったんです。3年生が稽古を再開すると、『このシーン、もう1回練り直せるよね』と、部員から次々とアイデアが挙がりました」(坂巻君)

ゾンビメイクも本格的だ(8月23日、東京公演リハーサル)

「本番に強い」自信を胸に 

「僕らは本番に強い。稽古時に不安な部分があったとしても『本番で練習以上の演技をしてやろう』って気持ちになるんです」(角田君)。本番では、全国の大舞台での上演を心底楽しんだ。「僕らの演技に笑ったり悲鳴をあげたり、観客のみなさんにも舞台を温めてもらいました。(物語後半に登場する重要な小道具である)『ケチャップ』を取り出したシーンでは、拍手が起こったんです」(角田君)

演者たちは客席からの声も力に変えた。結果は全国1位となる最優秀賞。受賞発表の瞬間、作品と真剣に向き合った日々がまぶたに浮かび、グッと感極まる部員たちの姿があった。

部長の坂巻君(左)と前部長の角田君(8月23日、東京公演リハーサル)
【角田君が手に持っているケチャップの意味は…? テレビ放送でチェック!】

NHK Eテレ「青春舞台2019」

放送日時

・9月7日(土)22:00〜23:00 ドキュメンタリー

・9月8日(日)14:30〜15:40 最優秀校上演(逗子開成高等学校「ケチャップ・オブ・ザ・デッド」)

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ゾンビ役の上野君(奥)は、何作ものゾンビ映画をみて動きの研究をしたという(8月23日、東京公演リハーサル)

訂正:上野凜太郎君の名前を誤って表記していたのを訂正いたしました。(2019.9.13 09:30)