人間が生きていく上で欠かせないものとしてまず思い浮かぶのが、「食」「水」「エネルギー」ではないでしょうか。近年は、資源の枯渇や環境破壊といった課題もあります。そこで、私たちの身の回りにあるものを活用して、こうした課題を解決する新たな技術を開発している、千葉工業大学工学部応用化学科の小浦節子教授にお話を伺いました。

工学部応用化学科 小浦節子教授

研究の柱は食・水・エネルギー

「この研究室の名称は『電気化学研究室』ですが、学生自身にやりたいことを追究してもらうのがモットーなので、取り組んでいるテーマは非常に幅広いんです」と小浦先生は話す。

研究する上で大切にしているのが、「身の回りにあるものを使って、身の回りをよくすること」だ。例えば食分野では、酸素濃度を高めた特殊な水を用い、植物や魚介類の成長促進効果を研究している。この水には肉眼で見えないナノサイズの小さな気泡(ウルトラファインバブル)にした酸素が大量に溶かしてあり、普通の水と比べて植物や魚介類がより早く、大きく育つそうだ。「ただ、なぜそうした効果があるのかはわかっていないんです。農業や水産業に貢献するためにも、効果やメカニズムを科学的に解明したいですね」。将来的には、この水を使ってワサビや毛ガニといった高級食材を育てることを目指している。

次に水分野で取り組んでいるのが、海水から「リン」という物質を回収する技術の開発。リンには植物の実付きをよくする働きがあり、肥料として広く利用されている。このため、徐々に量が減っているのが現状だという。その一方で、海に流れ込む生活排水には多くのリンが含まれ、赤潮の一因にもなっている。そこで考えたのが、海水からリンを回収し、リン不足と海水汚染を同時に解決すること。現在は、海水から塩分を除去する際に使われる電気透析という技術を応用し、リンを回収すべく試行錯誤中だ。「多くのハードルがあるものの、世界でも誰も取り組んでいないテーマだけに、挑戦する価値はあると思っています」

身の回りにあるもので「環境発電」

 

エネルギー分野の研究の一つが、身の回りにある光や熱などを回収し、電気に変換する「環境発電」だ。例えば、照明の光、人間の体温、自動車が走る時の振動など、私たちが捨てているエネルギーは、すべて電気に変えられるという。また、プランターで植物を育てるだけで電気を作れる、「植物発電」の研究も今年から始めた。これは、土の中の微生物が、植物の根から出るグルコースを食べて水素イオンを出す仕組みを利用するものだ。

身近なもので電気を作る例として、「果物電池」も紹介された。レモンに銅板と亜鉛板を差し込み、銅線でつなげると、果実に含まれるカリウムやクエン酸が電解質となり、電力が発生する。中澤さんも実際にレモンを3個つなげて電池を作り、オルゴールを鳴らすことに成功した。

「身近にあるちょっとしたものから少しずつエネルギーを作り、利用していくことで、世の中は変わっていくと思います。この研究室は高校生にも門戸を開いているので、興味のある人はぜひ来てほしいですね」

 

【取材を終えて】 中澤 彩恵さん(埼玉・青山学院大学系属浦和ルーテル学院高等学校2年)

 普段から当たり前と思いがちな身の回りのものに対して積極的に疑問を持ち、よりよくするために何ができるか考えることが研究をする上で大切だと教わりました。ウルトラファインバブルの研究は進めば進むほど「食」の発展に貢献し、私たちの生活を豊かにすると伺いました。研究の成果が発揮される将来が楽しみで待ち切れません!

 

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