理系の学びは、研究室で黙々と実験を行うだけではありません。海、里山、街中と、さまざまなフィールドに飛び出して、人と生き物、環境のつながりを見つめている千葉工業大学先進工学部生命科学科の五明美智男教授にお話を伺いました。

 

研究の基本はフィールド調査

五明先生の研究室では、多様な生き物の調査を通して、人と生態系と環境のつながりを理解し、それらの保全・再生のあり方などを考えている。

研究の基本となるのがフィールド調査だ。例えば、海岸で漂着物を拾ったり地引き網を引いたりして、その海にどんな生物がいるかを調べる。NPO 活動に協力し、東京湾の多摩川河口干潟で環境調査を行う。ここは都が絶滅危惧種に指定している魚・トビハゼの生息地だ。過去には、「地域における寺社林の位置づけ」という文系的なテーマに取り組んだ学生もいた。

「特定の生物や分野に限定していないんですね。研究対象の幅広さに驚きました」と福元さん。「それは私自身が水産、土木環境、社会環境、さらに環境保全に関わる市民活動と、さまざまな分野で研究活動を続けてきたからです」と言う五明先生。

五明美智男教授

地域の環境保全と魅力発信に貢献

フィールド調査は、地域の生態系や環境の現状を知ることから始まる。カメラを持って現地を歩き、各自が見つけたものや気になるものをどんどん撮影していく。撮った写真は「情報」として扱い、研究室に戻ってから整理・分類する。そこにKJ法を利用することで、地域の課題の全体像が見えてきて、保全や再生の具体策を考えていくことができるという。

フィールド調査の目的はそれだけではない。調査結果を地域にフィードバックすることで、地域の活性化や観光資源の創出に貢献できる可能性があるのだ。「私たちより地元の人のほうがフィールドに詳しいんです。でも、彼らから話を聞きつつ、私たちが良い意味で『よそ者の視点』で眺めることで、地元の人が気づいていない地域の魅力を新たに発見できることも。そうした魅力の発信も大切にしています」。例えば、千葉県南房総市の岩井海岸に漂着した貝を集めて調べたところ、150 種類を超すことがわかった。これは他の海岸と比較しても遜色のない多さだそうだ。

今後は研究分野の多様性を生かしつつ、生命科学分野の知見をより多く取り入れていきたいと五明先生は語る。「同じ種類の生物でも個体差があります。例えばそれが環境要因によるものなのかは、遺伝子解析技術を用いればより詳しくわかるはず。他の研究室の協力も得ながら、新たな研究・教育領域を拓いていきたいですね」

研究する上で大切なのは、「鳥と魚と虫の目」を持つこと。「空を飛ぶ鳥のように、物事を俯瞰しましょう。絶えず変化する水の中でエサを捕る魚には、先を予測する目が必要です。そして、虫の目は複眼です。ぜひ、物事をいろいろな角度から見つめてほしいと思います」

【取材を終えて】福元まりあさん(埼玉県・浦和ルーテル学院高等学校・3年)

 
  私たちの社会と密接に関わる生態系の仕組みを研究する生命科学。生物と自然環境についてのみならず、人の生活や文化の学びにも幅広く繋がる多彩な分野であることを知りました。
 1 年間担当したこの企画も、私 、福元まりあが担当させていただくのは今回で最後となります。来年度も千葉工業大学の取材は続きます! 今後もぜひ、理系のマナビに注目してくださいね。

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