【あらすじ】上リ坂(のぼリざか)高校新聞部の3年生・篠田ヒロは、自分の学校がここ数年で進学実績を伸ばしている秘密を探るため、先生たちへの取材を始めた。成績を上げるコツや考え方が分かり、手応えを感じてきた。

上リ坂高校のヒミツを探る特集も、今号で最後となる。校長室の前を通りかかると、白髭(ひげ)校長とバッタリ遭遇した。

「やぁ、篠原くん。毎号読んでいるが、いい連載になったのう」

――ありがとうございます。

 

「最後に、模試についても書くといいぞ。自分の勉強方法が本当に正しいのか客観的にチェックする唯一の機会じゃからな。いくら自分が正しいと思う方法で勉強していても、模試で成績が出なければ間違えていたことになる」

――定期テストでも勉強方法の振り返りはできますよね?

「その通りじゃ。ただし、定期テストと比べて模試の方が、市販の問題集の類似度が低い。つまり、より広く応用できるような勉強ができていないと模試では通用しないから、よりハイレベルな振り返りができるんじゃ」

――抽象化や類題演習のレベルを上げる必要があるっていうことですね。

「そうじゃ。問題集に載っている問題から本質を抽出し、さらに類似問題を解いて応用するわけじゃが、このやり方が甘いと模試では通用せんのじゃ」

――なるほど……。模試で通用するレベルに上げるには、どうしたらよいでしょうか?

「模試を復習する際、出題された問題と問題集の問題を紐(ひも)付けることじゃ。実は模試に出題された問題の多くが、問題集の類題だったことに気づくであろう。問題集に載っている問題を通して何を学んでいたら解けたのかを振り返ることが、より深い勉強方法に変わるきっかけになるんじゃ」

――他に、模試の有効な活用方法はありますか?

「志望校を書く際は、A判定が出る大学を必ず1つは記入しておくことじゃな。雲の上の志望大学を記入して全部E判定になるより、行く気はないけどA判定が出る大学を記入しておけば、自分のだいたいの学力が実感できる。あとはそこから成績を伸ばしていくだけじゃ。さて……」

聞きたいことはまだたくさんあったが、白髭校長は逆に、僕に質問を投げた。

「篠田くん、結局、上リ坂高校のヒミツは分かったかね?」

上リ坂高校では勉強に対する一貫した考えが行き渡っており、学校を信じて安心して勉強ができる環境をつくり出しているところじゃないか、と僕なりの考察を伝えた。

「実はね、学校にヒミツなんてないんじゃ」

――え、どういうことですか……?

「わしはただ、やる気のある生徒を集めただけなんじゃ。その結果、先生が変わり、システムが変わり、進学実績が変わった。生徒のやる気に応えていったら、全てが勝手にうまく回ったということじゃ。では、やる気のある生徒を集めるにはどうしたらいいか。それは……ヒミツじゃ」

そう言って白髭校長はニコリと笑った。  (完)

ふなと・よしあき 東京大学理学部化学科卒業。学習参考書などを多数執筆。著書に「高校一冊目の参考書」(KADOKAWA)、「高校の勉強のトリセツ」(学研プラス)など。