小説すばる新人賞を受賞した青羽悠君

集英社が主催する「第29回小説すばる新人賞」に愛知県の高校2年生、青羽悠君の『星に願いを、そして手を。』が決まり、11月18日に帝国ホテル東京で授賞式が開かれた。16歳での受賞は同賞の最年少記録。受賞作は自身が初めて書いた小説という。来年2月に出版される。

副賞200万円「クラスで奢らされそうになった」

同賞はエンターテインメントの作家として活躍する人材の登竜門として設けられ、今回は1333編の応募があった。受賞作は、プラネタリウムのある町立科学館で一緒に遊んでいた幼なじみの男女4人が登場する青春小説。高校卒業後にそれぞれの道を歩んでいた4人が20代半ばになった夏、「館長の死」をきっかけに再会してからの出来事が、高校時代の回想もまじえて描かれる。

授賞式で配られた冊子に青羽君が寄せた「受賞の言葉」によると、中学生のころに本を読み始めて物語の面白さに気付き、「自分が本当にやりたいことは何かを書くことじゃないか」と思い始めたという。受賞作品の執筆を「本当に書きたかったことがあるのに、それを上手く落とし込めない。そんなもどかしさを常に感じながら、それでも、確かにある思いを離してたまるかと必死に書いてきたつもりです」と振り返った。「(副賞の)二百万円という賞金に、僕よりも友達の方が目をギラギラとさせています。学園祭の打ち上げでクラス全員に焼肉を奢らされそうになりました」とも明かした。

「この小説を簡単に吹き飛んでしまうものにはしたくない」

ほかの3つの文学賞と併せて行われた授賞式でのスピーチには、原稿を入れたクリアファイルを手にして登壇。「担当の方に2分くらいスピーチをしてくれと言われ、『マジか…』。こんな大人に囲まれて高校生が何をしゃべれば正解なのかと、ちょっと途方にくれて、でも何かしゃべらないといけないので、原稿を書いてきました」と、緊張した面持ちながら時折笑みを浮かべて話した。受賞について「うれしいという気持ちも、もちろんあるんですが、やはり不安の方が今の僕には大きい」「ただ、この小説をとにかく簡単に吹き飛んでしまうものにはしたくない、絶対してたまるかという思いをずっと抱えて書いてきたものなので、そこが何とか読み手に伝わってくれたのかと、そこはうれしい」と語った。

選考委員からは未熟さの指摘と期待が交錯

選考委員5人の選評には、「小説として欠点が多過ぎる。可能性は認めるけれど、次作を待つほうがよい」(阿刀田高さん)、「決して完成度が高いとはいえないけれども、ある世代の内面世界を描くという視点では終始一貫していて、これも現代小説のありようだろうと納得した」(五木寛之さん)といった「未熟さ」への指摘と、「書く姿勢に、無視できない一途さがある」(北方謙三さん)、「ここにダイヤの原石がある」(宮部みゆきさん)といった「可能性」への期待が交錯する。

自身も23年前に同賞を受けた村山由佳さんは「書き手の想いがとめどなくあふれ過ぎたために、小説の完成度から言えば欠点だらけなのだが、自分はどうしてもこれを語りたいのだという熱量で他を押しのけ圧倒していた」と評した。北方さんは授賞式で「彼は天才ではありません。普通の16歳の少年で、彼が掴んだのは、雲の間からきらりと光るような一瞬の閃光だったと思います。それを普遍的なものにできるかは、彼のこれからの生き方と努力(次第)だろうと思います」とエールを送った。

「もっともっと面白いものを書きたい…まずは大学受験」

青羽君自身はスピーチで、「自分の作品を読み直してみて、(選考委員の)先生方がおっしゃるように、本当にまだまだ未熟だなとずっと思っているんですが、その未熟さも含めていただけた賞なのかと思っています。ここでもぶるぶる震えちゃうぐらい、まだまだ未熟な僕なんですが、大きなチャンスをいただけたのだから、もっともっと、もっともっと面白いものを書きたい」と意気込んだ。続けて「少しずついろんなことを頑張って、まずは(大学)受験頑張んなきゃいけないんですけれども」と笑うと、会場も笑いに包まれた。

受賞作は来年2月24日に集英社から単行本として刊行される予定。抄録と選評が発売中の「小説すばる」12月号に掲載されている。(西健太郎)