理系のマナビ

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【マナビ最前線】医療工学のスペシャリスト「臨床工学技士」に迫る(埼玉医科大学)<PR>


埼玉医科大学 保健医療学部 臨床工学科※ 安全工学研究室 川邉 学講師にお話を伺いました。(※2018年4月、医用生体工学科から現名称に変更)

川邉学講師

命のエンジニア「臨床工学技士」は医療工学のスペシャリスト

「命のエンジニア」という言葉を聞いたことがあるだろうか? これは医学と工学両方の専門知識をもつ医療国家資格「臨床工学技士の別称だ。病院など医療施設で医療機器、特に人工心肺装置、人工透析装置、人工呼吸器など命に関わる生命維持管理装置を扱うことからそう呼ばれている。

「臨床工学技士という仕事自体が、あまり知られていないかもしれませんね。病院内ではICU(集中治療室)などで重病患者さんに使用されている生命維持管理装置を操作する場面が多いので、外来の患者さんにはあまり馴染みがないかもしれません」と話すのは、同学科で講師を務める川邉学先生だ。

医療機器の操作は、臨床工学技士の大切な仕事の一つだが、現代医療の高度化に伴い、求められる技能も拡大している。看護師や医師が安全に医療機器を扱えるよう講習会を開いたり、医療機器メーカーと病院を仲介して機器の開発に携わったり、修理や点検を行うなど仕事の内容は多岐にわたる。「年々、需要は高まり、本学での就職率は100%。それでも人材が足りていない現状です」と川邉先生。超売り手市場といえる。

病院内で携帯電話を安全に使える環境を整える

川邉先生の専門領域である医療機器安全管理学は、さらに現代的な課題をもつ。「病院内で使われる電波の医療機器への影響について研究しています。病院内では、これまで医療機器に影響しないPHSが使用されてきましたが、2020年にPHSのサービスが終了します。そこで、PHSに代わる携帯電話を安全に使用するための研究が必要なのです」。

現在は微弱な電波であれば、医療機器に重大な影響はないことがわかっている。通常、基地局からの電波がよく届いていれば、携帯電話の画面にはアンテナが5本立ち、微弱な電波しか発しない。ところが、基地局の電波が弱いと、携帯電話は強い電波を発してしまい医療機器の誤動作のリスクとなる。「地下など電波が届きにくいところで携帯電話のバッテリが減りやすいのも、携帯電話の出力があがってしまうから。つまり携帯電話の通信環境を安定的によくすることでこのリスクを軽減するのです」。

拡大していく臨床工学技士の役割

対象は携帯電話だけでない。病室にいる患者の心電図などの生体信号を、無線を通じて離れたナースステーションで見ることができる医用テレメータが普及しているが、これもまた照明に使われているLEDから放射される不要電波に干渉し、受信不良を起こすことがあるという。

「これらの課題には、建築業者と協働して建物の構造を変え、電波を通りやすくすることも必要です。また、天井に這わせているアンテナが劣化すると電波を受信しづらくなるため、定期的にアンテナの点検をする必要もあります。そのため、現在は電波を管理する機関と連携した研究も行っています」。

また病院での電子カルテの普及や医療機器のIoT(物と物がインターネットのようにつながること)化が進むにつれて、さらに病院における電波の利用は進むだろう。しかし、危惧されるのは、病院を訪れる人々が持ち込むモバイルルーターなどの電波利用機器が妨害電波となり、電子カルテなどに影響を与えることだ。「院内での電波利用機器の使用のルールづくりや、持ち込みの監視システムの構築など取り組むべき課題が山積みです。臨床工学技士が担える管理業務を増やしていき、学生たちが本学で身につけた工学的能力を活用できる場をもっと提供したいですね」と川邉先生。臨床工学技士の可能性を感じる言葉だ。

「卒業生の中には、JICAから派遣されて海外で技士として活躍している人もいます。彼は在学時から海外で働くことを視野に入れて勉強していました。大学では、そういう強い目的をもって学ぶことが大事。臨床工学技士は日本にしかない資格なので、今後、海外で指導するというニーズもあるかもしれません。できれば修士まで進み、特別な能力をつけて社会に出てほしいですね」。

先輩に聞く

埼玉医科大学大学院 医学研究科医科学専攻生体医工学分野

修士課程1年 榎本幸佑さん(埼玉・県立松山高等学校出身)

高校時代に関心のあった医療と工学の両方を活かせる仕事と考え、臨床工学技士を目指しました。埼玉医科大学を選んだのは、附属病院が3つもあり、実習でも就職でも有利だと思ったから。現在、大学院で無線LAN環境の遠隔監視システムの開発に取り組んでいます。学位の取得後は、病院に勤務しながら、学会などを通じて外部にも臨床工学の技能を発信していくつもりです。

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