2015年世界ジュニア選手権で(写真は学校提供)

高校入学と同時に自転車競技を始め、わずか3年で世界への階段を駆け上った選手がいる。2015年のアジアジュニア選手権で5冠を達成した梶原悠未(埼玉・筑波大坂戸3年)。東京五輪も視野に入れるが、実は中学までは競泳選手。なぜ未知の世界に飛び込んだのか、振り返ってもらった。
(田坂友暁)

中学時代は水泳選手

「競技用の自転車はペダルとシューズがくっついているんですが、最初はそれをうまく外すことすらできなくて、よく落車していました」

屈託のない笑顔を見せながら、自転車競技を始めた当時を振り返る。

1歳から水泳を始め、小学校時代から全国大会に出場するほどの実力があった。しかし、中学3年生の夏、最大の目標にしていた全国中学大会への出場がかなわなかった。夏休みはつらくて毎日泣いてばかり。「『努力は裏切らない』っていいますけど、『裏切るじゃん』って思っていたんです」

負けん気の強さで急成長

目標を失い、その後の水泳の練習にも実が入らない日が続く。だが、進路選択を前にして、水泳部のある高校とない高校の2校を受験。「合格した高校に水泳部があれば水泳を続け、なければきっぱり辞める」と一大決心をする。

「(水泳を続けるかどうかを)自分自身ではとうてい決断できませんでした。もし水泳部のない高校に受かったら、神様が『ほかのことをやれ』って言っているんだと思うようにしました」

結果、水泳部のない筑波大坂戸に進学。入学後、部活紹介で自転車競技に興味を持ち、顧問の安達昌宏先生の熱心な指導ぶりに引かれ、入部を決めた。

未経験のため戸惑いも多かったが、持ち前の負けん気の強さを発揮。不慣れな自転車を乗りこなそうと毎日練習を積み重ねた。その結果、1年生の夏にいきなりトラック種目の女子スクラッチで全国高校総体(インターハイ)出場(公開競技)を果たす。

「最初に立てた目標が3年間のうちにインターハイに出場することだったので、いきなり達成できて夢を見ているような気分でした。その時『努力は報われる瞬間があるんだ』と初めて実感できました」

インターハイで落車

しかし、迎えたインターハイ本番、梶原はなんとゴール手前で落車してしまう。「痛いのと悔しい気持ちでいっぱいで……。正直、辞めたいとも思いました」

そんな梶原に対して安達先生が声を掛けた。「もっと自転車競技を好きになりなさい」。その言葉で、自分が水泳に対して未練を持っていたことに気づき、あらためて自転車競技の魅力を探るようになる。「作戦を考えたり、研究したり、周りの選手たちと駆け引きをしたりする魅力に気づきました。それからは心から『自転車競技が楽しい』と思えるようになりました」

常に目標を持つ

14年3月、全国高校選抜大会で3冠を達成。同年5月にはアジアジュニア選手権のロードレースで銀メダルを獲得し、以降、華々しい戦績を築いていく。

目標を常に持ち続け、それに向かって日々練習に取り組んでいく意志の強さは、母親の育成方針が深く関わっている。「『目標を持って1年を過ごしなさい』とか『達成したら次の目標を決めてそこに向かって努力しなさい』と幼い頃から教えられてきました」

安達先生も梶原の魅力は「スポーツに対して高い意識を持っている。負けん気は本当に強い」と話す。

決断したことに対して、真剣に取り組む心の強さこそが、3年間で急成長を遂げた要因なのである。

東京五輪を目指す

2年時には、スイスにあるワールド・サイクリング・センター(WCC)に3週間、留学した。世界から集まったトップアスリートたちと生活を共にして、テクニックや心構えなどを学んだ。3年生になってからも、文部科学省の「トビタテ! 留学JAPAN」プログラムの選考に通り、WCCに約3カ月留学した。

自転車競技を始めてわずか3年で世界まで登り詰めた姿だけを見ていると、とんとん拍子に挫折もなく進んできたように見えてしまう。しかし、その裏では成功体験以上に悔しい思いや失敗も経験。その度に、安達先生と二人三脚で解決策を考えて努力を積み重ねてきた。

「『結果がどうであれ、目標に対して一所懸命頑張ったという課程が大切なんじゃないの』という安達先生の言葉で、失敗を恐れずに取り組めるようになりました」

卒業後は筑波大体育専門学群に進み、そこで学んだことを自分の競技生活にも生かしていきたいという。「自転車競技に出会って、安達先生とも出会えていろんな新しい経験ができた高校生活だったので、絶対に忘れられない3年間です。今後も一つ一つ目標をクリアしていきながら、東京五輪を目指していきたい」

まぶしい笑顔で「相棒」の自転車を操る梶原悠未(野村麻里子撮影)

かじはら・ゆうみ 1997年、埼玉県出身。埼玉・和光三中卒業。2年時にはジュニアトラック世界選手権の女子ポイントレースで銀メダルを獲得。3年時にはアジアジュニア選手権で5冠を達成し、今年1月のアジア選手権女子スクラッチにエリートクラスで出場し優勝。3月、トラック種目の世界選手権(イギリス)に出場予定。156センチ、54キロ。