将棋の藤井聡太七段が、その才能を伸ばした一因として脚光を浴びる教育がある。自由な環境で子ども自身が「自ら育つ力」を育む独特なメソッドを持つモンテッソーリ教育だ。そんな教育法を、開園した頃から実践するのが東京都立川市にある「ふじようちえん」。そこで働く先生たちに、幼稚園教諭の仕事について聞いてきた。

 
 

 

自由で独特なコンセプトに共感して決めた就職

なぜ幼稚園教諭に?

桑山 小さい頃から、幼稚園の先生に憧れていました。高校で進路を決める時、ダンスや歌など自分の好きなことを活かせる仕事は何かと改めて考えた結果、やはり幼稚園の先生になりたいと思いました。

篠﨑 母が幼稚園教諭でした。中高一貫の独特な環境で育ち、学校教育に携わりたいと最初は小学校教諭を目指して大学に進みました。転機は4年次、母に「おもしろい幼稚園がある」と聞き、ふじようちえんを知ったこと。見学会で園長の話す園舎や教育コンセプトがあまりに自由でした。共感するとともに、これまでの幼稚園のイメージが覆され、「ここだ」と思いました。

モンテッソーリ教育とはどのような教育ですか?

篠﨑 子どもたちの個性は一人ひとり違います。その性格を汲み取り、その子に合った本当に必要なものを把握し、できないことをできるように導く体験型の教育です。子どもがやりたいことを、自ら選択させることを重視しています。

現在の仕事の内容は?

桑山 2人ともこの春から年長のイングリッシュクラスで、ネイティブスピーカーの先生とペアで担任を受け持っています。英語を理解できない子のフォローをしたり、1日の流れを組み立てるのが主な仕事です。生活に必要な動きの習得や、五感を洗練させたりなど、子どもたちのできることを増やすために、モンテッソーリや園オリジナルの教具を用いて、環境を整えます。自由保育を重視しているので、遊びに関して私たちから「こうしなさい」という指示はしません。

 

人を育てる仕事には多彩な教養が必要

大変なことはありますか?

篠﨑 1年目は経験不足でつらかったですね。クラスは担任と副担任で受け持つので、うまく協働できるようになるまでは迷惑をかけていたと思います。6年目を迎えた現在は、限られた保育時間の中で、子どもたちをどう成長させるか、子どもへの理解を深めるよう努めています。

桑山 実習で保育を経験していても、やはり就職して現場で働くには経験が乏しく、一人ひとりへの対応がうまくできませんでした。初めて担任を受け持った3年目から責任も芽生え、個別に対応する余裕も生まれました。今は子どもたちと接する毎日が楽しくてしかたありません。

高校生にメッセージをお願いします。

篠﨑 幼稚園の先生には、人間としての幅が求められます。それには教養が大事。お芋掘りに行って、ただ「楽しいね」で終わるのでなく、種芋の植え付け方から育て方まで説明できるといいですよね。そのためには、学生時代のうちになんでも吸収することをお勧めします。

桑山 幼稚園教諭に限らず、自分に合った進路を見つけるには行動力が大切です。気になる進路があるなら、迷わずすぐに見学し、雰囲気を体感しましょう。

 
【施設の特徴】 東京都立川市のふじようちえんは、開園時からモンテッソーリ教育を導入している。「見て、触れて、感じて、考えて、行動する」をコンセプトにした、園内のどこを切り取っても「子どもが育つ道具」となる空間が特徴的。あえてでこぼこの園庭や、回遊魚のように走りまわれる楕円形の屋上、オープンな園長室など、子どものもつ人を育てる仕事には多彩な教養が必要自由で独特なコンセプトに共感して決めた就職「自ら育つ力」を引き出す環境が整っている。園児が収穫した無農薬野菜・果物を給食に取り入れるなど食育にも取り組んでいる。
 

モンテッソーリ教育とは
イタリアの医師マリア・モンテッソーリが考案した教育法で、科学的に子どもを観察し、子ども自身がもつ「自己教育力」を伸ばす環境を作る。たとえば3~6歳では、「日常生活の練習」「感覚教育」「言語教育」「算数教育」「文化教育」によって自己教育力を引き出す。日本モンテッソーリ教育綜合研究所・教師養成センターにおいて、資格試験も実施。

「円柱さし」「着衣枠」「小豆注ぎ」などのモンテッソーリ教具。「色水実験」「葉っぱのこすり出し」はふじようちえんオリジナルの教具。

なり方ガイド

幼児を対象とする幼稚園教諭と保育士。幼稚園は文部科学省が管轄する教育機関なのに対し、保育所(園)は厚生労働省が管轄する児童福祉施設だ。そのため幼稚園教諭になるためには幼稚園教諭免許が、保育士になるためには国家資格である保育士資格が必要となる。近年では幼稚園と保育所(園)の機能を合わせ持った「認定こども園」も増えており、その場合は、幼稚園教諭免許と保育士免許のダブル取得が有利になる。

幼児の保育と同時に保護者のケアや指導も重要な仕事のひとつとなる幼稚園、保育園の先生。そのため一般教養やコミュニケーション能力、また、最近では外国人保護者も増加していることから異文化理解能力も求められる場合が多い。