ナノテクノロジーという言葉を知っていますか? 1 ナノメートルは10 億分の1メートル。超微細なナノの世界で物質の新たな機能などを調べている千葉工業大学工学部機械電子創成工学科の菅洋志准教授にお話を伺いました。

菅洋志准教授

ナノスケールで物質の性質が変わる

人間の髪の毛1本の太さは約0.1ミリメートル。それを100分の1にして、さらに1000 分の1にしたのが1ナノメートル(nm)だ。こうした原子や分子のスケールで物質を扱う技術をナノテクノロジーという。菅先生の研究室では、機械工学や電子工学、材料工学など幅広い分野の知識や技術を融合し、ナノスケールの物質の性質や構造の測定、測定装置の開発などに取り組んでいる。

ナノの世界を見るために不可欠なのが「走査型電子顕微鏡」だ。数十nm の試料に電子ビームを照射し、はね返ってきた信号を画像化して観察していく。試料の移動や加工は、画像を見ながら精密に動くマニピュレータで行う。

「ナノの世界は、見るだけでも大変なんですね。でも、そもそもなぜ物質をナノスケールで観察するのですか?」と福元さん。「それは、物質がナノスケールまで小さくなると、通常の大きさでは見られない特異な性質や現象を示す場合があるからです。それらを調べたり、そこから新たな機能を創出したりするのが私の研究の一つです」と菅先生は話す。ナノスケールの物質がもつ特性をうまく利用すると、常識では考えられない高効率のエネルギー変換が可能になったり、複雑な電子回路をごく単純な構造で作れたりするそうだ。

【挑戦中】電子顕微鏡と精密マニピュレーターで、直径40ナノメートルの繊維状ナノ材料を1本取り出す。

超高温環境下でもデータを守れるメモリーを開発

研究成果の一つが、他の研究機関と共同開発した新たなメモリーだ。「デジタルデータをUSB などのメモリーに記憶・保存する際には、電流のオン・オフの切り替えが必要です。しかし、従来のメモリーでは、切り替えを行うスイッチであるシリコン半導体が高温に弱いため、85℃を越す環境下だと電流が常にオンになり、記憶や保存ができないんです」

こうした課題を解決すべく菅先生が開発したのが、金属のナノ構造変化を利用した電極だ。ナノ構造変化とは、ナノスケールの金属に特定の条件下で電圧をかけると、表面に微小な突起ができ、伸びたり縮んだりすること。伸びると電流がオンに、縮むとオフになり、スイッチとして機能する。電極に耐熱性が高い白金を使うことで、これまでにない600℃という超高温環境下でも正常に動作するメモリーを実現した。

「例えば、これを飛行機のフライトレコーダーや自動車のドライブレコーダーに使えば、万一火災を伴う事故が起きてもデータが消失せず、事故原因の究明や再発防止に役立ちます。また、高温の惑星の探査など宇宙分野の活用も夢ではありません」(菅先生)。「ナノの小さな世界には、これまでの科学の常識を変えるさまざまな可能性があるんですね」(福元さん)

【取材を終えて】福元まりあさん(埼玉県・浦和ルーテル学院高等学校・3年)
 
 

普段なかなか注目する機会の少なかったナノテクノロジーの世界の最先端のお話は、初めて聞くことばかりでとても新鮮でした。とくに体験させていただいた電子顕微鏡を覗きながらの細かい作業は、とても繊細で難しいことはもちろん、根気が必要なのだなと実感しました。また、先生が開発された高温動作のメモリが、惑星探査機や飛行機のフライトレコーダーへの応用も期待できると聞き、実用化がとても楽しみに思いました。

ナノテクノロジーの分野は肉眼では認識できないほどの小さな世界ですが、とても大きな可能性を秘めている分野だと思います。今後の技術を革新する大切な鍵を握っている存在だと私は感じました。今後も注目し続けたいです。

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