ウガンダの一時滞在センターから居住地へ向かうためトラックに乗り込む難民(UNHCR提供)

 

現在、世界中で6500万人以上いる難民・国内避難民。世界128カ国でその保護と支援を担うのが国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)だ。駐日事務所の職員の小坂順一郎さんは、昨年9月から3カ月にわたり、南スーダン難民の居住地があるウガンダでの支援活動に携わった。過酷な環境で、支援に奔走した日々を振り返ってもらった。(野口涼)

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)
小坂順一郎さんに聞く

 
こさか・じゅんいちろう
1970年生まれ。国際基督教大学で国際法などを学び、ロンドン大学で欧州統合などを研究。2006年から国連難民高等弁務官駐日事務所勤務。
 

昨年は40万人が流入

──なぜウガンダに派遣されたのですか。

南スーダンでは政府内の派閥抗争が激化し、武力衝突にまで発展した2016年7月に治安情勢が急速に悪化しました。無差別な暴力行為や強盗・拘束、女性への性的暴行、男性に対する強制的な徴用などが横行する状況から逃れるため、昨年だけで約40万人、今年になってからも4月までに約20万人の人々が隣国のウガンダに流入しました。

こうした状況を受けてウガンダ政府は、新たな難民居住地を北部の田舎町ユンベ付近に設置することを決めました。UNHCRがこの支援を要請され、私は緊急対応チーム(ERT)の一員としてウガンダに派遣されました。

──現地で行った主な支援内容は。

現地には35以上もの国際NGOが集まり、水・衛生、保健・栄養、食料、物資、住居、教育など分野別のチームに分かれて支援を行っています。ニーズのギャップや重複が起こらないように調整するのがUNHCRの役割です。

私は、毎日国境を越えてくる、多い時は6000人以上の難民の居住地への移動を担当。具体的には、一時滞在センターから政府が指定する居住地にトラックで移動し、食料と水、給水容器や簡易シェルターを作るためのビニールシートといった生活物資を配布し、子どもや女性などに適切な支援が届くようにします。

灼熱の環境で飲まず食わず

──対応で心掛けたことは。

居住地を歩くだけでも「食料をもらえなかった」「仕事がしたい」「中学校に行きたい」といった難民からの相談が絶え間なくあり、対応に追われました。赤道直下の灼熱の中、難民も支援者もろくに食事も水も取らずに活動しているため、あちらこちらで感情的な対立が起きます。

難民は「これから何が起きるのか」「自分たちはどのように扱われるのか」といった未来に対する情報に飢えており、こちらが感情的になれば向こうも感情的になります。同じ目線に立って話すことが、とても大切な状況でした。

──過酷な状況ですね。

1人当たり15リットルから20リットルの水が必要といわれていますが、ひどいときには1日4リットルの水しか供給できないこともありました。水の供給が減ると、よどんだ川の水を料理に使うような状況が生まれます。一時はコレラも発生しましたが、幸い、感染は最小限にとどめることができました。

水を求めて列をなす難民(ウガンダ、UNHCR提供)

幼い姉妹救えず自問自答

──難民との交流で心に残っていることは。

幼い3姉妹に「助けてほしい」と言われました。親は南スーダンで殺され、里親に保護されていました。虐待を受けている懸念もあったのですが、証拠はありません。子どもの支援を専門とするNGOにも相談しましたが、最終的には里親と一緒に居住地に向かって行きました。

毎日数千人の難民が到着する現場での支援体制は大きなベルトコンベヤーのようで、難民一人一人が抱える問題に立ち止まって向かい合うような余裕はありません。だからといって、あの姉妹を里親と一緒に居住地に移してよかったのか、いまだに自問しています。

国や人種の違い乗り越え

──つらかったことは。

ふん尿と汗、土ぼこり、トラックの排ガスの臭いが充満する現場では、どこに行っても給水車とビニールシート、黄色い給水容器が目に入ります。そんな中で常に張り詰めた状態で活動し、オンオフの区別をつけるのも難しい。疲労とストレスのため、体が動かなくなってしまったことが2度ほどありました。

──やりがいは。

難民や支援関係者とは、時には叫び合い、支え合いながら困難な問題を解決しようとしてきました。そんな時、国や宗教、人種の違いを乗り越え、同じ地平に立って問題を共有していると感じられる瞬間があったことが心に残っています。

感性と想像力を鍛えよう

──難民のために高校生ができることはありますか。

日本から遠く離れた国の人たちをなぜ支援するのかということを考えてみたとき、同じ人間として彼らの痛みを自分のこととして感じる感性と想像力を鍛えることが今はなにより重要なのではと思います。いろいろな人と出会い、会話をし、活動し、旅をし、本を読み、歴史を学ぶことが、いつか現場に行くための準備になります。

──国際機関で働くことを望む高校生へアドバイスやメッセージをお願いします。

みなさんは今、自分がなにをやりたいのかを模索していることと思います。「国際機関で働くこと」を目標にするより、まずは「貧困をなくしたい」「世界で起こっていることを多くの人に伝えたい」など、自分のもつ問題意識に将来どう関わっていきたいのかを考えてみてください。そうすれば自ずと自分のやりたいこと、そのために身に付けなければならないことが見えてくるのではないでしょうか。

 

 

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)
 1950年、国連総会によって設立されて以来、政治的な迫害や武力紛争、人権侵害などを逃れるために国境を越えて他国に庇護を求める人々である難民や国内避難民などの支援を行ってきた。これまで5000万人以上の難民の生活再建を支援。54年と81年にノーベル平和賞を受賞した。現在、世界128カ国の事務所で1万人以上の職員が働いており、2016年末の時点で、25カ国で緊急対応の支援を行っている。

【ウガンダの難民政策】
 難民保護と受け入れるコミュニティの社会的発展を両立させ、難民が自立して地域社会と共存できるように、各世帯に土地を割り当て、就労や移動の自由を許可している。国際社会による人道支援が地域の社会経済的な発展に結びつくという理由で、地元コミュニティも難民の受け入れに寛容。