演出家・宮本亜門が考える「世界で通用する“グローバル人材”」とは? 明治学院大オープンキャンパス<PR>


 

ニューヨーク・ブロードウェイで東洋人初の演出家としてミュージカルを手がけた宮本亜門さん。今年は演出家デビュー30周年の節目の年だ。ミュージカルをはじめ、オペラ、歌舞伎などジャンルを越え、国内外で活躍する宮本さんだが、世界に目を向けたきっかけは意外にも引きこもりだった高校時代の経験にあった。

引きこもりの高校時代 音楽で世界に思いを馳せる

――宮本さんが、世界に目を向けるようになったきっかけは何ですか?

子どもの頃、日本舞踊や茶道など和の文化に親しんでいたんです。そのことで、同世代の友人たちと通じ合えず、高校時代にいわゆる“引きこもり”になりました。その時、部屋にこもりながら、クラシックやミュージカルのレコードを繰り返し聞き、西洋の、発散するような音楽に喜びを感じました。「なぜこの音楽は心に沁みるんだ?」といったことを考えながら、歌詞を訳したり。引きこもりから脱した時には、海外のものをもっと吸収したいと思うようになっていました。

演出家への道を決意した ブロードウェイの舞台

――演出家を目指したきっかけは?

この世界にはまず出演者として入りました。21歳の時、明日がミュージカル初日という夜、母が亡くなったんです。葬儀の翌日に思い出したのが、「この世界で生きていくなら、いつかブロードウェイに行きなさい」という母の言葉。英語も話せないのに、とにかく行ってみようと思いました。ところが、当時のニューヨークは治安が悪く、宿も汚くて物騒な場所でした。初めての夜、孤独と恐怖で泣いたことを覚えています。でも翌日、「ここまで来たら、やるしかない」と思い直し、ブロードウェイの劇場に行って片言の英語でチケットを購入したんです。その時の喜びは、孤独の中に光が差し込んだようでした。

劇場に入って驚いたのが、前に座る観客たちの髪色がみんな違うこと。その多様性に感動しました。さらに衝撃だったのが、舞台の熱気。舞台と客席のバトルのような2時間半で、終始引き込まれました。

それまでの僕は、弱虫で消極的。演出家になるのは無理だと思っていたんです。でもブロードウェイの舞台を観て、「これは真剣に取り組む価値のある仕事だ」と感じ、演出家になることを決意したんです。

――その後、演出家になった経緯を教えてください。

「演出をしたい」ともがいていたロンドンで、友人に「演出を通して何をやりたいの?」と聞かれたんです。それは僕にとっては「目からウロコ」の質問でした。だって、それまでは「演出家」を職業としてしか見ていなかったから。帰国して「いろんな角度から人を見て、人種などの違いを超えられる演出家になりたい」と思いました。

デビューするなら20代のうちにと、29歳で意地になって舞台を完成。僕が初めて演出した『アイ・ガット・マーマン』というミュージカルです。100人規模の劇場から始め、再演を重ねていきました。

 

世界を変える発想力は 個々の違いから生まれる

――その『アイ・ガット・マーマン』は2001年にニューヨーク郊外のスタンフォードで初上演。そして2004年にはついに『太平洋序曲』でブロードウェイデビューされました。

海外のオーディションでは自己アピールの強さにいつも驚かされます。丁重にお断りしても、すごい剣幕で抗議されたり、台本への不服を延々と聞かされたり。でも、考え方や思想、信じてきたものは、日本人だって一人ひとり違います。そこから、新しい視点や発想が生まれるもの。だから、僕は人のカラフルさを否定したくないんです。「わかりあえない」と思った現場でも、話し合いを通じて乗り越え、舞台初日を迎える感動といったら!

――グローバル人材とはどんな人であり、どうしたらなれるのか、高校生にメッセージをいただけますか?

グローバルに活躍する場面はさまざま。でも、「グローバル人材とは?」と聞かれると、正直なところわかりません。ただ、新しい発想、人と違う考え方を持っていれば、世界を変えていく人になれると思います。それは年齢や地位に関係なく、誰にでも可能です。

今、お金や名声に価値を置く世界になりつつあるように感じますが、それが幸せのすべてでしょうか? 幸せの「ものさし」は人それぞれ。そんな違いを知るためにも、世界のいろんな場所に行って、感動をもらい、発見をして、心を豊かにしてほしいですね。

緑豊かな明治学院大学横浜キャンパスを訪れた宮本さん。
宮本 亜門【みやもと・あもん】
1958年、東京・銀座生まれ。ミュージカル、オペラ、歌舞伎などジャンルを越えた演出家。1987年、ミュージカル『アイ・ガット・マーマン』で演出家デビュー。翌年、文化庁芸術祭賞受賞。2004年、ニューヨークのオン・ブロードウェイにて、東洋人初の演出家としてミュージカル「太平洋序曲」を上演。同作はトニー賞4部門でノミネート。その後も三島由紀夫原作「金閣寺」の舞台化、オーストリアにて宮本亜門版「魔笛」を、シンガポールにて能楽と3D映像を融合した「幽玄」を世界初演するなど、国内外で幅広く活躍。7月にロンドンの大英博物館で上演した朗読劇「画狂人 北斎」の凱旋公演が、9月17・18日に東京で行われる。

 

【8/5トークイベント in オープンキャンパス「違うから面白い、違わないから素晴らしい」~グローバル社会で活躍する人材を目指して~】

8月5日の明治学院大学(横浜キャンパス)のオープンキャンパスでは、トークイベントが行われた。猛暑の中、訪れたたくさんの高校生や保護者を前に、宮本さんは舞台さながらの軽妙な語り口で自己紹介をする。

仏像巡りが好きだった中学時代。友達とつながる話題がなく、仮面をかぶって生活し、やがて引きこもりとなった高校時代。深刻な話も面白おかしく笑いを交えて高校生に響く言葉に代えて伝えようとする。

「違うから面白い、違わないから素晴らしい」というテーマについては、自身の演出家としての体験を話す。それは「異なる意見を尊重し、年齢や人種、ジャンルを超えた可能性を探ること」と宮本さん。

最後に、引きこもり経験者として、「苦しい時があっても生きること。大人になると、好きなことができるので、何があっても生きぬいてください。つらい時には、離れて自分を見る。Googleマップで、宇宙から地球、日本、住んでいる町、窓の中。自分を小さく感じてみて」と締めくくった。

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