皆さんの中には部活や生徒会で会計係を務めている人もいるのではないでしょうか。会計といえば一般に「企業会計」のことを指しますが、部活や生徒会の会計と企業会計にはたくさんの共通点があります。ここでは会計はいったい何のためにあるのか、大学で会計を学ぶとはどういうことか、立正大学経営学部の嶋津邦洋先生に伺いました。

経営学部で学べることのなかでもマーケティングや経営戦略に比べて地味なイメージがある会計。その真の実力がわかる会計学講座です。

 

会計とは「活動の結果を数値にして報告書にまとめ、関係者に伝えるシステム」のこと。国や企業、自治会から文化祭の実行委員会まで、お金が動くところでは常に会計が用いられます。

皆さんの家の「家計簿」もそのひとつです。家計管理の方法は家庭によってさまざまですが、仮にお母さんが一人で任されているとしましょう。お父さんからお給料を預かったお母さんは、そのお金で食費や光熱費などの生活費をまかない、税金や住宅ローンなどを支払います。他にも皆さんが大学に進学するための費用を毎月少しずつ貯金しているかもしれません。残ったお金がお父さんとお母さん、そして皆さんの“おこづかい”になります。

こうしたお金の流れを記録する家計簿には、大きくふたつの機能があります。ひとつは大きな買い物の計画を立てたり、適正な貯金額を定めたりする際に役立つ財産管理の機能。もうひとつが私的利害を調整する機能です。

私的利害の調整とは、「車を買い換えたい」「おこづかいを値上げして欲しい」といった家族ひとりひとりの思惑を、家計簿の公開によって調整すること。家計がギリギリの状態だとわかれば、皆さんだっておこづかいの値上げをあきらめざるを得ませんね。また家計簿の公開はお母さんにとっては誠実な家計管理の証明にもなります。

企業の場合は出資者や債権者などから集めたお金を元手に「利益」を出さなければならない点が家計とは大きく異なります。

このため企業には財産状況を明らかにする「貸借対照表」と、経営成績を明らかにする「損益計算書」のふたつの計算書(財務諸表)の作成が義務づけられています。この財務諸表をもとに出資者や債権者、取引先、従業員、顧客といった関係者が利害を調整する…例えば出資者であれば、企業の経営状態がよくなければ出資をやめるなどの選択肢をとることができるのです。

なお、家族が見るだけの家計簿と異なり、財務諸表は「複式簿記」という共通ルールに基づいて記録されます。 つまり会計のルールを学び、財務諸表を読む力を身につければ、企業を正しく評価できるようになるということ。他の参考資料と合わせてみれば、就職活動の際に企業の実態や将来性を見抜くこともできなくはありません。

1999年、経営が悪化し、倒産の危機に陥っていた日産自動車はフランスの自動車メーカー、ルノーと提携し、子会社となりました。そして日産の社長には、ルノー副社長だったカルロス・ゴーン氏が就任しました。実は会計数値の算出方法はひとつではなく企業の実態を正確に反映するよういくつかの方法があります。会計に詳しいゴーン社長は、それまで日産で用いられていた方法とは別の方法を用い、就任1年目にあえて通常以上の巨額な赤字を計上。そのうえで経営能力を発揮し、“V字回復”をさらに大きく演出することに成功しました。

投資家や債権者が会計数値のどこに注目し、どこを評価するのかを熟知しているゴーン社長は、経営戦略だけでなく会計ルールをも利用することで自らの経営手腕を見せるとともに、日産の評価も大きく高めたのです。

「優れた経営者は会計に強い」といわれますが、ゴーン社長はまさしくそのよい例。ビジネスの最前線でも会計の知識は必要不可欠なものであることを示しました。
このように大学では簿記技法の習得はもちろん、会計数値がどう作られているのか、何を意味しているのかといった本質の理解を目指して会計を学びます。学生には会計と社会との結びつきを通じて、より広い視野で社会を見る力、考える力を身につけてほしいと考えています。

 

Close up 嶋津ゼミ 会計を切り口に社会を見る

ビジネスのグローバル化に伴い、会計のルールを国際的に統一化しようという動きがあります。「そもそも国によってビジネスの慣行や文化が違うからルールも異なる。それはつまり会計を切り口にして政治や経済、文化が捉えられるということです。ゼミの学生にはそういった“会計の視点”を身につけてほしい」と嶋津先生は言います。

今年4月にスタートしたばかりの嶋津ゼミのメンバーは2年生11人。前期は主に会計専門書を読み、メンバーで討議を重ねることで理解を深め、後期からは会計不正事件や企業不祥事をテーマにグループ発表を行う予定です。卒業論文までじっくりと会計に取り組んでいきます。